遺族年金は、亡くなった日の一日で決まる

 

遺族年金は、亡くなった日の一日で決まる遺族年金は、亡くなった日の一日で決まる

納付も、収入も、家族の範囲も。判定はその一日の事実を見ている

日本年金機構の「遺族年金ガイド 令和8年度版」と、同機構の遺族厚生年金の制度ページ(202641日更新)を並べ、要件の書きぶりを一節ずつ突き合わせました。納付要件、生計維持、遺族の範囲、国民年金の独自給付。説明の調子は節ごとに違うのに、判定の基準日を示す言い回しだけは揃っています。死亡日の前日において。当日ではなく、前日です。

遺族年金は請求して初めて振り込まれます。ただし審査されるのは、窓口に立っている遺族の今日の状況ではなく、亡くなったその日の家族の状態です。いくら受け取れるかという話より、この入口のほうが結果を分けている。資料に当たった順に、判定が凍りつく場所をたどります。

1. 納付要件の分母は、死亡月の前々月で止まっている

納付要件の分母は、死亡月の前々月で止まっている

保険料の納付要件がかかるのは、遺族厚生年金の五つの受給要件のうち二つだけです。厚生年金保険の被保険者である間に亡くなったとき。被保険者期間に初診日がある傷病で、初診日から5年以内に亡くなったとき。

条件はこうです。死亡日の前日の時点で、死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間について、保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あること。日本年金機構「遺族年金ガイド 令和8年度版」3ページの記載です。

誤解が起きやすいのは分子のほうです。同ガイドは括弧書きで、ここに厚生年金保険の被保険者期間と共済組合の組合員期間も含めると明記しています。会社員として働いた月は、国民年金の保険料を自分で納めていなくても納付済として数えられる。転職の合間に並んだ未納だけを見て諦める必要はありません。

ガイドが載せている例で検算してみます。20歳から加入し、40歳で亡くなった方。被保険者期間240月に対して、国民年金の納付済30月、免除12月、厚生年金の被保険者期間120月。合計162月です。240月の3分の2160月ですから、2月の余裕で要件を満たします。未納は78月ありますが、それでも通る。

3分の2に届かないときの特例もあります。死亡日に65歳未満であれば、死亡日の前日の時点で、死亡月の前々月までの直近1年間に未納がなければよい。この特例の期限は、かつて令和83月末とされていました。現在は令和18年、20363月末までです。古い期限のまま更新されていない解説がウェブ上に残っているので、年数は現行のページで確かめてください。

そして「前日において」です。亡くなったあとで未納分を納めても、その納付は判定に入りません。制度は事後の穴埋めを想定していない。確かめる意味があるのは今日です。

2. 年収900万円でも、3年後に定年なら判定は動く

年収900万円でも、3年後に定年なら判定は動く

対象になるのは、亡くなった方に生計を維持されていた遺族です。日本年金機構の年金用語集は、これを二つに分けています。生計を同じくしていること。前年の収入が850万円未満、または所得が6555千円未満であること。

この数字を見て、共働きで収入の多い側が最初から諦めてしまうことがあります。けれども同機構の遺族年金ガイドのQ&Aは、そのあとに続きを書いています。死亡当時に年収850万円以上であっても、おおむね5年以内に850万円未満になると認められる事由——退職や廃業など——がある方は、遺族年金を受け取ることができる。

根拠は厚生労働省年金局長通知「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23323日年発03231号。令和61127日年発11272号までの改正があります)です。この認定基準が見ているのは、基準額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者かどうかであって、今年たまたま超えていたかどうかではありません。

前年の収入が900万円でも、3年後に定年を迎えることが決まっているなら、退職の予定を示す資料をそろえて出せば判定は動きうる。自分で線を引いて請求しないことが、いちばんもったいない外れ方です。

3. 別居も内縁も、それだけで生計同一から外れるわけではない
別居も内縁も、それだけで生計同一から外れるわけではない

生計維持のもう一方、生計同一のほうには幅があります。年金用語集は、同居していること、別居していても仕送りをしている、健康保険の扶養親族であるといった事情があれば認められる、としています。

認定基準はさらに細かい。単身赴任、就学、病気療養などのやむを得ない事情で住民票上の住所が違っていても、生活費や療養費の経済的な援助が行われ、定期的に音信や訪問があれば、生計を同じくしていた者に当たるとされます。介護のために別居した、入院が長引いた。そうした家の形が、それだけで判定から外れるわけではありません。

配偶者には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、つまり内縁の配偶者も含まれます。ただし戸籍上の配偶者がいる場合は、届出による婚姻関係が実体を全く失っているときに限って、内縁関係のほうが認定されます。

この判定が実際にどう行われるかは、社会保険審査会が公表している裁決文で読めます。平成26年(厚)第1166号、平成27828日裁決。戸籍上の妻がいる方が亡くなり、内縁の妻からの請求が不支給とされた事案です。審査会は、別居に至った事情、経済的な援助がむしろ妻から夫へ向かっていたこと、終末期医療に関与したのが誰だったかを検討し、婚姻関係はすでに形骸化していたと認めて不支給処分を取り消しました。すでに戸籍上の妻に遺族厚生年金が裁定されていたことも、この結論を左右しないとしています。

判定は書類上の身分だけで決まるのではなく、死亡日時点の生活の実態で決まる。裏を返せば、その実態を示す材料は、亡くなったあとには作れません。

4. 退職の前か後かで、報酬比例の土台は300月にもゼロにもなる

退職の前か後かで、報酬比例の土台は300月にもゼロにもなる

遺族厚生年金の額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。65歳以上でご自身の老齢厚生年金の受給権がある方には別の比較計算が入りますが、金額の話は本題から外れるのでここでは触れません。知られていないのは、その計算に300月のみなしが入る場合と入らない場合があることです。

みなしが働くのは、受給要件のうち三つ。在職中の死亡。被保険者期間中に初診日がある傷病で、初診日から5年以内の死亡。1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けている方の死亡。この三つなら、厚生年金の加入が300月に満たなくても300月として計算されます。

一方、老齢厚生年金の受給権者であった方、またはその受給資格を満たしていた方が亡くなった場合には、みなしがありません。実際の加入月数で計算されます。しかもこの二つは、保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間、65歳以降の厚生年金の被保険者期間を合わせて25年以上ある方に限られます。全国市町村職員共済組合連合会の遺族厚生年金の説明は、前の三つを短期要件、あとの二つを長期要件と呼び分けています。この二語を覚えておくと、窓口でも資料でも話が早い。

厚生年金の加入が120月で会社を辞め、その後は国民年金だけ、という記録を思い浮かべてください。在職中に亡くなれば300月として計算され、土台は2.5倍になります。退職後で、合算して25年に届いていれば120月。25年に届いていなければ、遺族厚生年金そのものが出ません。退職という一つの出来事の前後で、300月か、120月か、ゼロか。この三択が分かれます。

5. 配偶者に内縁を含め、子から連れ子を外す線引き

配偶者に内縁を含め、子から連れ子を外す線引き

受け取れるのは、生計を維持されていた遺族のうち最も優先順位の高い方です。順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母。上位の方がいれば、下位には回りません。

配偶者には条件が二重にかかります。子のない30歳未満の妻は5年間。子のない夫は55歳以上である方に限って受給でき、支給が始まるのは60歳から。ただし遺族基礎年金を併せて受け取れる場合に限り、55歳から60歳の間でも受給できます。父母と祖父母も55歳以上に限られ、支給開始は60歳です。

子の側の線引きは、年齢だけではありません。遺族年金ガイドは、子とは死亡した方の実子または養子を指し、養子縁組をしていない配偶者の子は含まれない、と書いています。再婚して同居していても、縁組をしていない連れ子は遺族年金の「子」に入らない。一方、死亡当時に胎児だった子は、生まれてから対象になります。婚姻していないことも条件です。

妻の側に年齢の下限はなく、夫の側にはある。共働きで妻の収入が家計の柱だった50代前半の夫は、現行制度では遺族厚生年金を受け取れません。この非対称は20284月に見直されます。厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」によれば、18歳年度末までの子がいない60歳未満の男性が新たに5年間の有期給付の対象となり、その規模は年間およそ16千人と推計されています。女性側で新たに有期給付へ切り替わる30代は年間およそ250人。桁が二つ違う。現行の制度が誰を落としてきたのかが、この推計に出ています。

6. 30歳未満で切れる経路は二つあり、再婚でも権利は消える

「子のない30歳未満の妻は5年」という説明は、よく見かける割に片側しか語られません。遺族年金ガイドの失権の項には、5年で切れる経路が二つ並んでいます。

一つは、夫が亡くなったときに30歳未満の子のない妻が、受給権を得てから5年を経過したとき。死亡当時に胎児だった子が生まれ、遺族基礎年金を受けられるようになった場合は除かれます。もう一つは、遺族基礎年金と遺族厚生年金を受けていた妻が、30歳に到達する前に遺族基礎年金を受ける権利を失い、その失権から5年を経過したとき。どちらも平成1941日以降に夫が死亡した場合に限られます。

つまり子がいても、その子が要件を外れた時点で妻が30歳未満であれば、そこから5年で遺族厚生年金も終わります。子の有無だけで安心できる話ではありません。

失権の事由はほかにもあります。死亡したとき。婚姻したとき、内縁関係を含みます。直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき。該当したら、遺族厚生年金は10日以内、遺族基礎年金は14日以内に届出が必要です。入口の判定は死亡日で凍りますが、受給権のほうはその後の出来事で消える。凍っているのは入口だけです。

7. 死亡一時金の2年と、令和103月まで開いている支給停止の窓

タイトル: 葬儀や名義変更に追われるうちに、死亡一時金の請求権が死亡日の翌日から2年で時効になることに気づく女性 - 説明: 葬儀や名義変更に追われるうちに、死亡一時金の請求権が死亡日の翌日から2年で時効になることに気づく女性

遺族基礎年金は、遺族厚生年金とは対象がまったく違います。受け取れるのは子のある配偶者か、子。ここでいう子とは、18歳になった年度の331日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級か2級の状態にある方を指します。

国民年金の第1号被保険者期間しかなく、遺族基礎年金の対象にもならない場合には、寡婦年金と死亡一時金があります。寡婦年金は、第1号被保険者としての納付済期間と免除期間が合わせて10年以上ある夫が亡くなったとき、その夫に生計を維持され、事実婚を含む婚姻関係が10年以上続いていた妻が、60歳から65歳になるまで受け取れるものです。夫が老齢基礎年金か障害基礎年金を受け取ったことがある場合は請求できません。

死亡一時金は、死亡日の前日において第1号被保険者としての保険料納付済期間が36月以上ある方が、老齢基礎年金も障害基礎年金も受けないまま亡くなったときに、生計を同じくしていた遺族に支給されます。額は納付月数に応じて六段階。36月以上180月未満で12万円、そこから145千円、17万円、22万円、27万円と上がり、420月以上で32万円です。付加保険料を納めた月数が死亡月の前月までに36月以上あれば、8,500円が加算されます。受け取れる遺族の範囲は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹。遺族厚生年金より一段広い。

権利の時効は、死亡日の翌日から2年です。年金の請求権が原則5年であるのに対して、これだけが2年で消えます。寡婦年金と死亡一時金の両方を受け取れる場合は、どちらか一方の選択です。なお、この二つの請求先は年金事務所ではなく、住んでいる市区町村の役所または役場です。窓口が違うことを知らずに時間を使うのは、2年しかない期間ではもったいない。

ただし、急げばよいとも言い切れない期間が、いま開いています。子に遺族基礎年金が発生する場合でも、生計を同じくする父または母がいると、子の遺族基礎年金は支給停止になります。令和1041日以後は、この支給停止がなくなります。問題は経過措置のほうです。日本年金機構の死亡一時金のページは、令和841日から令和10331日までに権利が発生した死亡一時金を父または母が受け取った場合、生計を同じくする子の遺族基礎年金は引き続き支給停止される、と注意を促しています。この記事を書いている20268月は、その2年間の内側です。2年の時効に追われながら、受け取り方の順序も見なければならない。

遺族年金の話は、たいてい「いくら受け取れるか」から始まります。けれども家族の生活を分けているのは、その手前の判定です。しかもその判定は、亡くなった日の一点で凍っている。

ここに書いた要件と金額は、20268月の時点で日本年金機構と厚生労働省の公表資料に当たって確認したものです。制度は動きますし、実際に受け取れるかどうかは加入記録と生計の実態を一件ずつ見ないと決まりません。この記事は個別の判定に代わるものではないので、迷う点があれば年金事務所か街角の年金相談センターで記録を出して確認してください。

そのうえで、今日のうちにできることをひとつ。別居、単身赴任、長い入院、事実婚、縁組をしていない子。戸籍と住民票だけでは説明しきれない事情が家にあるなら、送金の記録、健康保険証、住所の異動、やり取りの痕跡を、いまのうちに一箇所にまとめておいてください。死亡日より後には、作れない書類です。

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