40代からの新NISA、若い世代とは「戦い方」が違う
40代からの新NISA、若い世代とは「戦い方」が違う
年360万円の枠より先に、教育費が出ていく年を数える
2,821万口座、累計71兆円。金融庁が令和8年7月3日に公表した、令和7年12月末時点のNISA利用状況の数字だ。前年末は53兆円だった。差し引き18兆円が2025年の一年で買われている。口座数で割ると1口座あたり63.8万円。年間投資枠は360万円ある。使われているのは2割に届かない。
ただ、この記事で本当に書きたいのはその先だ。令和9年1月から、0歳の子にもつみたて投資枠が開く。年60万円、上限600万円。教育資金を非課税で積める枠がようやく用意された――のだが、そこから金を出せるのは原則として子が12歳になってからで、使途も教育費か生活費に限られる。40代の家計には、この一行が効いてくる。
1. 71兆円を2,821万口座で割ると、1年あたり63.8万円になる
金融庁「NISA口座の利用状況調査(令和7年12月末時点)」の推移グラフ(別紙4)によれば、累計買付額は2023年12月末で35兆円、2024年12月末で53兆円、2025年12月末で71兆円。新NISAが始まってからの二年で36兆円が積み上がった。口座数2,821万で割ると1口座127.6万円、年あたり63.8万円になる。
別の経路でも当ててみた。総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要」の参考2欄には、2025年12月末時点の速報値として口座数約2,830万、年間買付額約18兆7,935億円が引かれている。速報値どうしで割ると66.4万円。どちらの経路をたどっても、年間枠360万円の18%前後にしかならない。
ここで一つ断っておく。分母の2,821万口座には、開設しただけで一度も買っていない口座が含まれている。だから63.8万円は「積み立てている人の平均額」ではない。実際に買っている世帯の平均は、これより高い。金融庁の公表資料に稼働口座だけを抜き出した計数は載っていないので、そこは踏み込まない。この数字は「制度全体が年間枠をどれだけ消化しているか」の指標として読むものだ。
それでも、年63.8万円のペースで生涯の非課税保有限度額1,800万円に届くのは28年後になる。45歳なら73歳だ。20代向けの記事が「毎月いくらで1,800万円」と書けるのは、28年後がまだ50代前半だからである。40代に同じ算数は通用しない。ここから先は枠を埋める話ではなく、限られた額をどの年に置くかという話になる。
2. 40〜49歳の年間収入は871万円、負債を持つ世帯は67.0%
総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果の概要(二人以上の世帯)」(令和8年5月19日公表)の、世帯主の年齢階級別の表を開く。40〜49歳は貯蓄現在高1,381万円に対して負債現在高1,483万円。純貯蓄額はマイナス102万円である。
同じ表には年間収入も載っている。40〜49歳は871万円だ。ここに年間投資枠360万円を重ねると、税込年収の41.3%になる。つみたて投資枠の120万円だけでも13.8%。360万円という枠は、そもそも大半の家計の所得と噛み合っていない。噛み合うのは上位の一部の世帯だけである。
負債の側も見ておく。負債を持っている世帯の割合は、40〜49歳が67.0%で全年齢階級のなかで最も高い。負債保有世帯だけを取り出すと、40代の負債現在高は2,212万円、貯蓄現在高は1,304万円で、差し引き908万円の負債超過になる。
同じ資料のもう一枚が、もっとわかりやすかった。持家の勤労者世帯のうち住宅ローンを返済中の世帯は、世帯主の平均年齢が47.0歳、負債現在高2,076万円、貯蓄現在高1,300万円。返済が終わった世帯は平均57.1歳で、負債は371万円まで落ちる。47歳から57歳までの十年で、家計の見え方はまるごと入れ替わる。40代はその入口に立っている。
正直なところ、この状態の家計に向かって「余裕資金で長期投資を」と言っても話が噛み合わない。ただ、同じ表の50〜59歳の欄は貯蓄1,756万円・負債743万円で、純貯蓄がプラス1,013万円に反転している。ひっくり返る前の十年に何をどれだけ積めるか。それが実際の問題設定だ。
3. 私立大学の授業料は96万8,069円、公庫の教育費調査は令和3年度で止まっている
支出の側を当てる。まず直近の一次データから見る。文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」(令和7年12月26日公表、集計592大学)では、私立大学(学部)の授業料が96万8,069円、入学料24万365円、施設設備費17万2,550円。初年度学生納付金等の合計は150万7,647円である。国立大学のほうは文部科学省令の標準額で、授業料53万5,800円・入学料28万2,000円。この授業料の標準額は平成17年度から一円も動いていない。
ただし家庭が実際に払う額には、塾代も通学費も教科書代も乗る。そこを調べているのが日本政策金融公庫「令和3年度 教育費負担の実態調査結果」(2021年12月20日発表、有効回答4,700人)だ。大学の1年間の在学費用は149.9万円。内訳は国公立103.5万円、私立文系152.0万円、私立理系183.2万円。自宅外通学者への仕送りは年平均95.8万円(月7.9万円)で、下宿を始めるための費用が入学者1人あたり38.7万円かかっている。
自宅外なら、在学費用と仕送りだけで年245.7万円。新NISAの年間投資枠360万円の68%にあたる。ただしこの245.7万円は全員に来る数字ではない。同じ調査では、自宅外通学者がいる世帯は全体の28.1%、1世帯あたり0.33人にとどまる。自宅から国公立に通えば年103.5万円で、倍以上の差がつく。
高校入学から大学卒業までの入学・在学費用の累計は、子供1人あたり942.5万円。進学先別では国公立大学743.0万円、私立大学文系951.6万円、私立理系1,083.4万円である。
この調査で目を引いたのは、費用より年齢分布のほうだった。回答世帯の主たる家計維持者は平均51.1歳。45〜49歳が25.5%、50〜54歳が32.9%で、合わせて58.4%を占める。高校生以上の子を持つ親の過半は、40代後半から50代前半にいる。学費がいちばん重い数年と、老後資金の積立額を上げたい数年が、同じところで重なる。
なお、公庫の教育費調査は令和3年度が最後で、公表一覧はそこで止まっている。以後の授業料や物価の変動は反映されていない。だから文科省の令和7年度データを先に置いた。授業料そのものは令和5年度から令和7年度で0.9%増と落ち着いているが、家賃や食費まで同じように落ち着いていたかは別の話だ。ここは幅を持って読んでほしい。
4. 売った分の枠が戻るのは翌年、当年中の復活は令和8年度の大綱に載らなかった
制度の側に戻る。金融庁の利用者向け資料は、商品を売却した場合、売却した商品の簿価の分だけ非課税保有限度額が復活し、翌年以降に再利用できると説明している。復活の単位は簿価、タイミングは翌年。教育費のために売る可能性がある40代には、この二つがどちらも効いてくる。
まず、戻るのは買ったときの値段のほうだ。非課税保有限度額は簿価残高方式で管理される。100万円で買った投資信託が160万円になり、それを全部売ったとする。手元には160万円が入る。増えた60万円に税金はかからない。ただし翌年に復活する枠は100万円分である。1,800万円のうち使ったのは100万円、と数えられているからだ。
次に、年間投資枠のほうはその年には戻らない。復活するのは生涯の非課税保有限度額であって、つみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円という年間の上限ではない。1月に成長投資枠で240万円を買い、3月に全部売っても、その年の成長投資枠はもう空かない。
金融庁は令和8年度の税制改正要望で、この「非課税保有限度額の当年中の復活」を挙げていた。だが、同庁が2025年12月に公表した「令和8年度税制改正について――税制改正大綱における金融庁関係の主要項目――」に、この項目は入っていない。つみたて投資枠の対象年齢見直し、対象商品の拡充、所在地確認手続きの簡素化、暗号資産取引の課税見直し、生命保険料控除の拡充は載り、当年復活は載らなかった。
つまり40代の取り崩しは、年をまたぐ設計になる。3月に入学金が要るなら、売るのは前年のうちだ。売った年の残りではなく、翌年の枠が空く。ここを勘違いすると、必要な年に枠がない状態で買い直すことになる。
5. 令和9年1月から0歳でも積めるが、12歳になるまで出せない
ここからが、40代の子育て世帯にとっていちばん大きい話だと思う。
令和8年3月31日に公布された「所得税法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第12号)で、非課税口座の口座開設可能年齢の下限が撤廃された。0〜17歳でもつみたて投資枠を設けられる。国税庁が令和8年5月に出した譲渡所得関係の改正あらましは、この枠を「未成年つみたて投資枠」と呼んでいる。設けられるのは令和9年以後の各年で、その年1月1日に18歳未満である年、および出生した日の属する年に限られる。年間投資枠60万円、非課税保有限度額600万円。成長投資枠にあたる勘定は同時に持てず、買えるのはつみたて投資枠と同じ投資信託だけだ。18歳になれば自動的に18歳以上のNISAへ移る。
ここまでなら、ジュニアNISAの再来として素直に歓迎できる。問題はその次だった。
同じあらましは、払出しの制限を二段階で書いている。境目になるのは、その年3月31日に12歳である年――条文の言葉では「特定基準年」だ。その前年以前、つまりおおむね11歳までは、災害等のやむを得ない事由(それが生じたことについて税務署長の確認を受けた場合に限る)と、上場廃止事由による払出ししか認められない。特定基準年以後、おおむね12歳からは、これに加えて、払出しの原因が口座開設者本人の教育費または生活費の支払に充てるためのものであり、その旨などを記載した書類を金融商品取引業者等の営業所の長に提出した場合に限って払い出せる。
売却代金も自由には動かせない。基準年、すなわちその年3月31日に18歳である年の前年12月31日までは、「特定課税未成年者口座」という専用の口座で管理しなければならず、そこからの払出しも同じ縛りを受ける。適用は令和9年1月1日からである。
これを40代の家計に当てると、話は子の年齢で割れる。子が5歳なら、積み始めても7年間は一円も出せない。中学受験の費用には使えないということだ。子が12歳なら翌年から教育費目的で出せるが、17歳まで6年しかないので、60万円ずつでも360万円しか積めない。600万円を使い切るには10年が要る。逆算すると、8歳の年までに始めた家庭だけが上限に届く計算になる。
もう一つ、子名義の口座に親が資金を入れれば、それは贈与である。暦年課税の基礎控除は年110万円(国税庁タックスアンサーNo.4402)だから、年60万円だけなら通常はその枠に収まる。ただし同じ年に他の贈与があれば合算される。ここは各家庭の事情で確かめるところだ。
制度が動くのは来年1月。金融機関がどんな商品ラインナップと手続きで出してくるかは、まだ告知待ちである。
6. 債券中心の投資信託が、つみたて投資枠の対象に入る
入ったほうの改正も、40代には関係がある。金融庁の「令和8年度税制改正について」によれば、つみたて投資枠の指定株式指数に読売株価指数(読売333)とJPXプライム150指数が追加される。
さらに、指定指数に連動しない公募株式投資信託がつみたて投資枠の対象となる要件が、「主に株式に投資するもの」から「主に株式又は公社債に投資するもの」へ見直される。債券中心の投信やバランス型が、つみたて投資枠で買えるようになるということだ。金融庁自身、リスクを取ることに慎重でなかなか投資に踏み出せない人の選択肢を広げるものだ、と注記している。
40代でこれが効くのは、教育費のために数年後に取り崩す予定がある部分だろう。使う年がだいたい決まっている金を株式100%の投信に置くのは、素直に考えて相性が悪い。ただし対象商品の要件のほうは金融庁告示の改正による。いつから実際に買えるようになるかを明記した記述は、今回当たった大綱の概要資料の範囲では見つからなかった。制度が動くことは確かでも、開始時期は各社のラインナップ告知を待つほうが正確だ。
7. 定期売却サービスに限って、手数料を取ってよいことになった
もうひとつ、地味だが出口に関わる項目がある。つみたて投資枠の売買手数料はこれまでゼロとされてきたが、定期売却サービスに限り、サービスに通常必要と認められる手数料の徴収が可能とされた。金融庁の注記は、資産を運用しながらその成果を活用したいニーズに応え、定期売却サービスの普及に取り組む金融機関のシステム負担に配慮するもの、としている。
定期売却サービスは、毎月いくら、あるいは残高の何%と決めて自動で解約していく仕組みだ。手数料を取れないため、扱う金融機関が限られてきた経緯がある。
40代には二十年先の話に見える。それでいい。ただ、制度の議論が「積む」側から「崩す」側へ動きはじめていること自体は、今のうちに頭の隅へ置いておくだけの価値がある。入口だけ設計して出口を放置した人が、60代で慌てることになる。
8. 月3万円で止まらないほうが、月8万円で三年目に止まるより強い
では実務として何をするか。ひとつだけ挙げる。年間の積立額を、教育費がいちばん重い年でも止めずに払える水準まで下げておくことだ。
根拠は上に並べた数字にある。自宅外通学なら年245.7万円が出ていく年が来る。公庫の同じ調査では、教育費の捻出方法として「教育費以外の支出を削っている(節約)」が28.6%、「子供(在学者本人)がアルバイトをしている」が21.5%、「奨学金を受けている」が19.2%、「預貯金や保険などを取り崩している」が18.8%と並ぶ。積立を止める世帯も当然いる。
止めること自体は選択のひとつだ。ただし、止めた年の年間投資枠は戻らない。売って空けた枠が使えるようになるのも翌年からだ。そして再開の判断は、相場が悪い年ほど重くなる。月3万円で止まらないほうが、月8万円で三年目に止まるより、40代の家計には向いている。これは節約の心得ではなく、40代の可処分所得が教育費と正面から競合するという、ここまでの統計の帰結にすぎない。
そのうえで、令和9年1月に開く未成年つみたて投資枠を、子の年齢から逆算しておく。8歳の年までに始められるなら600万円が埋まる。すでに12歳を過ぎているなら、出せる年は近いが積める額は限られる。どちらにしても、親の枠を削ってまで子の枠へ回すかどうかは、あの年間収入871万円と負債1,483万円の表を見ながら決める話になる。
ここに書いたのは制度と公表統計の整理であって、個別の商品や売買の時期を勧めるものではない。税制の適用や商品の取扱いは、各金融機関と最新の法令・告示で確認してほしい。数字はいずれも執筆時点で公表されていた一次資料に当たったが、令和8年度の改正には告示待ちの部分が残っており、制度のほうは今も動いている。
コメント
コメントを投稿
記事をお読みいただきありがとうございます。
ご意見・ご感想・ご質問をお気軽にお寄せください。
※スパム対策のためコメントは管理者承認後に公開されます。
※医療・法律・税務に関する個別相談はお受けできかねますので、専門家にご相談ください。