「まだ働けるうちに」やっておきたい資産の棚卸し
「まだ働けるうちに」やっておきたい資産の棚卸し
― 何を、どう確かめるか。口座・年金・保険を一枚にまとめる手順
先週末、自分の預金通帳とキャッシュカード、保険証券、証券口座のログイン情報を、一枚の紙に書き出してみました。銀行が四つ、証券が二つ、それに使っていない電子マネーがいくつか。電卓で合計を叩き直して、はじめて自分が「どこに、いくら置いているか」を正確には把握していなかったと気づきました。
資産の棚卸しは、退職してからでも遅くはありません。ただ、働いて収入があるうちにやっておくと、見つけた抜けや無駄を実際に直す余力があります。放置した口座を動かす手続きも、平日に動ける現役のうちが進めやすい。何より、手持ちのお金の全体像を一度きちんと数えておくと、その後の判断がぶれなくなります。
以下は、私が実際に手を動かして確かめた順番です。金額を当てにいくのではなく、「どこにあるか」「いつ動かせるか」を一つずつ潰していきます。やってみて分かったのは、いちばん時間がかかるのは金額の集計ではなく、「置き場所を思い出すこと」だったということでした。
1. 預金口座は「数」から数える ― 10年放置で休眠預金になる前に
最初にやるのは、残高の合計ではなく口座の数を数えることです。給与振込のメイン口座は覚えていても、昔作った地方銀行やネット銀行、子どもの学費用に開いた口座などは記憶から抜けがちです。私の場合、存在ごと忘れていた口座が二つ出てきました。
放置には期限があります。休眠預金等活用法(2018年1月全面施行)により、2009年1月以降の取引から10年以上、入出金などの異動がない預金は「休眠預金等」となり、預金保険機構に移管されます(預金保険機構「長い間お取引のない預金」)。移管されても同法第7条により、取引のあった金融機関の窓口で引き出せますし、口座の有無や手続きの照会は第6条でその金融機関が応じます。消えてなくなるわけではありませんが、通帳・印鑑・本人確認書類を持って窓口に出向く手間が戻ってきます。
やること自体は単純です。手元のカードと通帳を全部並べ、記帳するかネットで残高照会し、一覧にする。この段階で「もう使わない」と決めた口座は、働いているうちに解約か集約まで済ませておきます。窓口が平日の日中しか開かない銀行もあり、半日の有給を取らずに済むのは現役のうちだけの利点です。
2. iDeCoと企業型DCは「今いくら」より「いつ出せるか」
確定拠出年金は残高だけ見て安心しがちですが、確かめるべきは受給の時期です。iDeCoの老齢給付金は、60歳から75歳になるまでの間で受給開始を選べます(iDeCo公式サイト)。ただし60歳で受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要で、60歳以降に新規加入した場合は、加入から5年たたないと受け取れません。
見落としが多いのは、転職時に手続きを忘れた企業型DCです。加入資格を失った翌月から6か月以内に移換手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会へ自動移換されます(確定拠出年金法第83条)。自動移換中は現金のまま運用できず、手数料だけが引かれ、その期間は受給に必要な加入者期間にも算入されません。国民年金基金連合会の調査では、自動移換された人は2024年3月末で約129万人にのぼり、10年前のおよそ3倍に増えています。過去に転職した心当たりがあるなら、ここは必ず確認しておきたい項目です。
なお制度は動いています。iDeCoに加入できる年齢は現在原則65歳未満ですが、2026年12月分(2027年1月引落分)から70歳未満へ引き上げられ、拠出限度額も見直される予定です。自営業者などは月7.5万円、会社員・公務員などは企業年金と合わせて月6.2万円が上限となります(厚生労働省「2025年の年金制度改正」)。働き続けるつもりなら、積める期間と枠が広がる可能性も頭の隅に入れておきます。
3. 保険は「毎月の保険料」ではなく解約返戻金と貸付残高で見る
生命保険や個人年金は「毎月払っているもの」で止めず、今解約したらいくら戻るか、つまり解約返戻金まで確認します。貯蓄性のある契約は、これ自体が立派な資産です。返戻金額は保険証券には印字されておらず、各社のマイページか、証券番号を伝えてコールセンターに取り寄せるのが確実でした。
あわせて見るのが契約者貸付の残高です。解約返戻金の一定範囲内でお金を借りられる仕組みで、利率は契約の予定利率に連動します。予定利率が高かった時期の契約ほど貸付利率も高くなる傾向があり、過去に使ったまま忘れていると、利息が静かに積み上がっていることがあります。私も一件、十年以上前に借りたきり返済を止めていた貸付が残っていました。
保険証券を集め、各社のマイページか窓口で、現在の返戻金額と貸付残高を一度に確かめておく。この二つを足し引きして初めて、その契約が「資産なのか、借金を抱えた資産なのか」が見えてきます。
4. 不動産は「売れそうな価格」と「残債」を並べ、課税評価と混同しない
持ち家がある人は、資産の欄に自宅を書くと同時に、負債の欄へ住宅ローンの残債を書きます。この二つを並べて初めて、正味でいくら持っているのかが見えてきます。残債はローンの償還予定表に正確な数字が出ています。手元の表が古ければ、金融機関に問い合わせて最新の残高を取り寄せておきます。
注意したいのは、想定売却額の見当のつけ方です。よく目安に使われる固定資産税評価額は、地価公示のおおむね7割の水準で市町村が付けるもので、相続税路線価は8割程度が目安とされています(国土交通省「主な公的土地評価一覧」)。つまりこれらは課税のための評価であって、実際に売れる価格そのものではありません。売却価格を知りたいなら、近隣の成約事例や複数社の査定で当たりをつけるほうが実勢に近くなります。課税評価をそのまま売却額と思い込むと、正味資産を実態より低く見積もってしまいます。
5. 公的年金は「ねんきんネット」の見込み額で押さえる
自分の資産の棚卸しは、公的年金の見込み額まで入れて完成します。日本年金機構の「ねんきんネット」では、将来の年金見込額の試算、加入記録の確認、そして持ち主不明記録の検索までできます(日本年金機構「ねんきんネット」)。マイナンバーカードがあれば、マイナポータル経由で入れます。持ち主不明記録は、亡くなった家族の分も氏名・生年月日・性別で検索できるので、相続の場面でも役に立ちます。
50歳以上に届く「ねんきん定期便」には、受給を遅らせた場合の試算額も載ります。同封のアクセスキー(有効期限は発行から3か月)を使えばすぐに登録でき、期限が切れていても年金事務所で再発行してもらえます。働き方によって金額が変わる試算は、厚生労働省の「公的年金シミュレーター」でも確かめられます。
6. 紙の通帳がない資産こそ、真っ先に忘れられる
最後に、紙の通帳がないものを拾います。ネット証券、電子マネー、ポイント、そして毎月自動で落ちるサブスク。目に見えないぶん、いちばん忘れられやすい資産であり、いちばん漏れやすい支出でもあります。使っていないサブスクを一つ解約するだけでも、家計の見直しになります。
ここで大切なのは、どこに何があるかを、自分以外の人にも分かる形で残しておくことです。IDやパスワードそのものは安全に管理する必要がありますが、「どの会社に口座があるか」の一覧だけでも、いざというとき家族の負担がまったく違います。
一通り書き出してみると、資産の棚卸しの目的は「合計額を知ること」ではないと分かってきます。総額そのものは、来年になれば変わります。なお、ここで触れた制度・手数料・評価水準は改定されることがあるので、実際に手続きへ動く前に、各機関の最新の案内で確かめてください。
本当に確かめたかったのは、自分が置いた場所を全部覚えているか、そしてもし自分が動けなくなったとき、その紙一枚を頼りに誰かがたどり着けるか、ということでした。あなたの資産は今、何枚の紙に散らばっているでしょうか。
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