申請しなければ戻ってこない ― 医療費・介護費の還付制度、まとめて点検する
申請しなければ戻ってこない ― 医療費・介護費の還付制度、まとめて点検する
高額療養費の払い戻しを受ける権利は、診療を受けた月の翌月1日から2年で消える。協会けんぽの支給申請書の案内にも、市区町村の国民健康保険の案内にも、同じ起算日が書いてある。期限を一日でも過ぎれば、本来戻るはずの金は戻らない。
多くの人が「上限を超えれば自動で戻る」と思っている。原則は違う。医療費と介護費の払い戻しは、ほぼすべて申請主義だ。こちらが動かなければ、口座には一円も入らない。
しかも窓口も期限も制度ごとにばらばらだ。医療と介護で別、税の控除はまた別の役所が扱う。だから一度、まとめて点検しておく。本稿はその点検表である。挙げる数字はいずれも、本文に記した公的資料で確認できた範囲にとどめた。
1. 高額療養費は「払った後」に動かないと2年で消える
高額療養費制度は、一か月(同じ月の1日から末日まで)の窓口負担が所得区分ごとの上限を超えたとき、超えた分を払い戻す仕組みだ。根拠は国民健康保険法第57条の2など。本節で扱う上限額は70歳未満の区分のものとする。70歳以上には別の上限が定められており、同じ表は使えない。
年収約370万〜770万円の区分なら、現行の月の上限は「80,100円+(医療費総額−267,000円)×1%」。総医療費がいくら膨らんでも、自己負担はこの線で止まる。直近12か月で3回以上この上限に達すると、4回目からは44,400円に下がる。多数回該当という。
問題は受け取り方だ。会社員が入る協会けんぽや組合健保では、対象になると支給申請の案内が届くことが多い。国民健康保険でも、自治体が該当者に通知する。だが通知が来ても、申請書を出さなければ振り込まれない。そして時効が走る。診療月の翌月1日から二年。
だから領収書は捨てない。保険者から届いた高額療養費の封筒は、開封して期限を確かめる。出典は協会けんぽ「健康保険高額療養費支給申請書」の案内、および各市区町村の国民健康保険の高額療養費案内。時効二年はどちらにも明記されている。
2. 限度額適用認定証とマイナ保険証 ― 払う前に上限で止める
第1節の払い戻しは事後精算だ。いったんは大きな額を立て替えることになる。これを避ける道がある。
入院や高額な治療が前もってわかっているなら、保険者に「限度額適用認定証」を申請し、窓口に提示する。すると窓口での支払いが最初から上限までで済む。立て替えが要らない。
今はマイナ保険証でも同じことができる。窓口でマイナ保険証を読み取らせ、本人が同意すれば、限度額の情報が医療機関に伝わり、支払いは上限で止まる。限度区分が併記された資格確認書を出す場合も同じだ。出典は堺市・中央区など各自治体の高額療養費・限度額適用認定証の案内。
ただし、認定証やマイナ保険証で事前に上限が適用された月は、後からの払い戻し申請は要らない。逆に、それを使わず全額払い切った月は、第1節の申請ルートで取り戻すことになる。自分のどの月がどちらだったか、明細で分けて把握する。
3. 医療費控除 ― 年10万円の壁、所得200万円未満なら5%で開く
医療費控除は健康保険ではなく税の制度だ。所得税法第73条。一年(1月1日〜12月31日)に本人と生計を一にする家族が払った医療費のうち、10万円を超えた分を所得から差し引ける。総所得が200万円未満の人は、基準が10万円ではなく総所得の5%になる。控除の上限は200万円。出典は国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき」。
差し引くのは「払った医療費」から、保険で補填された金額を引いた額だ。高額療養費の払い戻し分や、生命保険の入院給付金などは引く。ここを引き忘れると過大な申告になる。国税庁の同じ説明にも、補填額を差し引く旨が書かれている。
年末調整では処理されない。確定申告か還付申告が要る。納める税がなく払いすぎた分が戻るだけの還付申告なら、対象年の翌年1月1日から5年さかのぼれる。一昨年・昨年の分を出し忘れていても、まだ間に合う。出典は国税庁の還付申告の取扱い。
通院の交通費も対象に含められる。市販薬中心の年なら、セルフメディケーション税制(年12,000円超・控除上限88,000円)との選択もある。両者は併用できない。有利な方を選ぶ。
4. 高額介護サービス費 ― 月の介護費が上限を超えたら申請で戻る
介護にも、医療の高額療養費と同じ趣旨の制度がある。高額介護サービス費だ。一か月の介護保険サービスの利用者負担が上限を超えると、超えた分が払い戻される。
上限は所得で段階が分かれる。一般的な課税世帯は月44,400円。住民税非課税の世帯は24,600円、そのうち年金収入等が年80万円以下の人は個人で15,000円が上限になる。出典は厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」。
対象になるのは介護サービスの利用者負担だけだ。福祉用具の購入費、住宅改修費、施設の食費や居住費は含まれない。介護費全般が戻ると思い込むと、計算が合わなくなる。
ここも申請主義で、時効は二年。初めて該当すると市区町村から申請書が届く。届いたら早めに出す。親の介護を担っている世帯は、親本人宛てに届いた封筒を見落としやすい。出典は江戸川区など市区町村の高額介護サービス費の案内。
5. 医療と介護を一年分まとめる「合算療養費」
医療費と介護費を別々に見ていくと、どちらも上限に少しだけ届かず、結局何も戻らないことがある。両方を1年分まとめる制度がこれだ。高額医療・高額介護合算療養費制度。
8月1日から翌年7月31日までの一年で、世帯の医療保険の自己負担と介護保険の自己負担を合算する。所得区分ごとの年間上限を超えた分が払い戻される。後期高齢者医療制度に関する厚生労働省のQ&Aでも、医療と介護の自己負担を世帯で合算して支給する取扱いが説明されている。
高額療養費や高額介護サービス費で先に戻った分は、合算の計算からは差し引く。二重には戻らない。これも申請が要る。基準日である7月31日時点の保険者に出す。医療と介護のどちらも少しずつかかっている世帯ほど、この制度が効く。
6. 2026年8月、上限額が上がる ― 今年の医療費こそ点検する
高額療養費の上限は、2026年8月から上がる。一度凍結された改定が、再び動いた。
経緯はこうだ。政府は当初2025年8月からの引き上げを目指したが、がん患者団体などの強い反対を受け、2025年春にいったん凍結した。その後、低所得者と長期療養者への配慮を加えた案で組み直し、2026年8月と2027年8月の二段階で実施することになった。2026年度予算の成立をもって実施が確定している。出典は厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(2025年12月、社会保障審議会医療保険部会で決定)。
中身は二つ。一つは月の上限の引き上げだ。年収約370万〜770万円の区分では、月の上限の固定部分が「80,100円+…」から「85,800円+…」へ、約5,700円増える。もう一つは年間上限の新設。月ごとの上限に届かない月が続いても、一年の自己負担の合計が所得区分ごとの上限(この区分でおおむね年53万円とされる)に達すれば、それ以降の窓口負担が止まる。長期治療への配慮として設けられた。出典は同じ厚生労働省資料。なお年間上限の集計方法など運用の細部は、省令・通知で順次定められる段階にある。
だから、引き上げ前の今の上限で取りこぼした月がないか、過去2年分を見る価値がある。来年以降は同じ医療費でも自己負担が少しずつ重くなる。
制度の上限額も、対象も、申請の窓口も、加入する保険と所得区分、住む自治体で細かく変わる。2026年8月改定の数値は国会審議や省令で微修正される余地も残る。最終的な確認先は、自分の保険者と税務署、そして市区町村の窓口になる。本稿の数字は、上の各出典で確認できた範囲のものだ。
そのうえで、今日できることは一つでいい。引き出しから、過去2年分の医療費の領収書と、保険者や市区町村から届いた払い戻しの案内を出す。開けないまま置いてある封筒があれば、まずそれを開ける。期限は、医療費が診療月の翌月1日から二年、介護費も二年、税の還付申告は五年。期限ごとに分けて、未申請が残っていないかを確かめる。それだけで、消えるはずだった金が、一つ二つ戻ることがある。
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