「置いておくだけ」のお金は、いま目減りしている ― 円安・インフレ下で資産の置き場所を考え直す

「置いておくだけ」のお金は、いま目減りしている

「置いておくだけ」のお金は、いま目減りしている

― 円安・インフレ下で、資産の「置き場所」を考え直す

現金は目減りする、だから動かせ――このところ、そういう論調をよく見かけます。たしかに物価が上がる局面で、利息のほとんどつかない口座にお金を寝かせておけば、買う力は静かに削られていきます。ですが、その裏返しで見落とされがちな問いがあります。では、いくらまでなら現金で持っていてよいのか。動かすべきお金と、動かしてはいけないお金の境目は、どこに引けばいいのか。

この問いには、感覚ではなく二つの公的な数字から答えを出せます。一つは、自分のひと月の生活費。もう一つは、銀行が一行つぶれたときに国の制度で確実に戻ってくる上限額です。前者は総務省の家計調査、後者は預金保険機構が公表しています。この二つを順に当てはめていくと、「いくらを現金で、いくらを別の場所へ」という線が、わりと具体的に引けます。

この記事の要点

① 生活防衛資金(生活費の半年~2年分)は、目減りを承知で「すぐ引き出せる現金」のまま手元に置く。

② 預金保険(ペイオフ)で確実に戻るのは、1金融機関あたり元本1,000万円とその利息まで。

③ 1,000万円を超える分は別の銀行へ分散。外貨預金は保護の対象外、決済用預金は全額保護。

 

1. ひと月の生活費から、半年・1年・2年ぶんを先に取り分ける

ひと月の生活費から、半年・1年・2年ぶんを先に取り分ける

まず手元に残すべき額――いわゆる生活防衛資金――を、収入が止まっても暮らしが回る月数で考えます。基準になるのは、ひと月にいくら使っているかという実額です。総務省の「家計調査報告(家計収支編)2024年平均」を開くと、概況の最初のページにこう書かれています。総世帯の消費支出は1か月あたり250,929円、二人以上の世帯では300,243円。ただしこの総世帯の数字は、平均世帯人員2.17人・世帯主の平均年齢59.8歳という「平均的な一世帯」をならした値です。だから自分に当てはめるときは、この平均をそのまま信じず、直近半年ぶんの通帳か家計簿から自分のひと月の実額を出して、そちらで計算し直すほうが正確です。

仮にひと月の生活費を25万円とします。半年ぶんなら150万円、1年ぶんなら300万円、2年ぶんで600万円。30万円で計算すれば、それぞれ180万円・360万円・720万円になります。会社員なら半年から1年、自営業や収入が不安定な人なら1年から2年を目安に置くとよく言われますが、ここは家族構成や仕事の安定度で動く部分なので、自分の数字で計算し直すのが筋です。肝心なのは、この金額だけは利回りを度外視して、すぐ引き出せる普通預金に置いておくということ。

ここで一度立ち止まります。生活防衛資金は、目減りしてもいい現金です。インフレで多少価値が削られても、病気や失職といった「現金でしか払えない場面」に即応できることのほうが、はるかに大きい。目減りの議論が本当に当てはまるのは、この防衛資金を超えた、当分使う予定のないお金のほうです。境目は、まずここに一本引けます。

2. 銀行が一行つぶれても、確実に戻るのは元本1,000万円までという線

銀行が一行つぶれても、確実に戻るのは元本1,000万円までという線

次の線は、預け先の安全度です。日本には預金保険制度――いわゆるペイオフ――があり、加盟する金融機関が破綻しても、預金者は一定額まで保護されます。預金保険機構の公表によれば、利息のつく普通預金や定期預金などの「一般預金等」は、1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1,000万円までと、破綻日までの利息等が保護されます(預金保険機構「保護の範囲」、金融庁「預金保険制度(ペイオフ)」)。

ここで効いてくるのが「1金融機関ごと」という条件です。同じ銀行に複数の口座を持っていても、それらは合算――「名寄せ」と呼ばれます――されて、合計で1,000万円までが上限になります。支店を分けても、同じ銀行なら一つに数えられる。つまり、ひとつの銀行に積める「確実に守られるお金」には、1,000万円という天井があるわけです。

試算してみます。一つの銀行に1,500万円を預けていて、その銀行が破綻したとします。保護されるのは元本1,000万円とその利息まで。残る500万円は、破綻した金融機関の財産の状況に応じて支払われるため、全額は戻らず一部がカットされる可能性があります(同前)。歴史を一つ挟みます。1971年に預金保険制度ができてから今日まで、このペイオフ(元本1,000万円までの定額保護)が実際に発動されたのは、2010910日に破綻した日本振興銀行の、ただ一度きりです。それ以前の破綻は別の金融機関への事業譲渡や資金援助で処理され、預金は結果的に全額が守られてきました。つまり「1,000万円を超えた分が実際にカットされる」という事態は、半世紀でたった一例しか起きていない。それでも、制度として確実に保証されるのは1,000万円まで――稀だから備えなくていい、ではなく、稀だからこそ一度きりの例外に自分が当たったときの線を、先に引いておく、という話です。

3. 1,000万円を超えたら、同じ銀行に積まず名寄せの外へ散らす

1,000万円を超えたら、同じ銀行に積まず名寄せの外へ散らす

防衛資金を取り分け、それでもなお1金融機関で1,000万円を超える現金が残るなら、打ち手はごく単純です。別の金融機関に分ける。名寄せは銀行ごとに行われるので、A銀行に1,000万円、B銀行に1,000万円と分ければ、それぞれが別枠で保護されます。店舗を持たないネット銀行も対象です。預金保険機構の加盟金融機関であれば、保護の仕組みそのものは大手と変わりません。

知っておくと得をする特例も一つあります。金融機関が合併した場合、または事業のすべてを譲り受けた場合は、その後1年間に限り「元本1,000万円×合併等に関わった金融機関の数」まで保護されます。二行が合併したなら、1年間は2,000万円までが守られる計算です(預金保険機構)。自分の取引銀行が合併したというニュースを見たら、この期間の存在を思い出すといい。逆に言えば、特例は1年で切れるので、それまでに口座を整理しておく必要があります。

もっとも、現金を何行にも散らすこと自体が目的になると、今度は管理が煩雑になり、口座の存在そのものを忘れるという別のリスクが出てきます。1,000万円という線は「これ以上は一行に置かない」という上限の目安であって、「常に1,000万円ぴったり置け」という話ではありません。数を増やしすぎないことも、立派な管理です。

4. 外貨預金は保護の外、決済用預金は全額――線の引かれ方を知っておく

外貨預金は保護の外、決済用預金は全額――線の引かれ方を知っておく

最後に、同じ「預金」でも保護のされ方が違う二種類に触れておきます。一つは外貨預金です。円安局面で資産の一部を外貨で持つ人は増えていますが、外貨預金は預金保険の保護対象ではありません(預金保険機構)。銀行が破綻すれば、外貨預金は財産の状況に応じた支払いになり、全額が戻る保証はない。為替で増える可能性と引き換えに、預金保険の傘からは外れている――この点は、円預金と同じ感覚で積んでいると、すっぽり見落とします。

もう一つは決済用預金です。「無利息・要求払い・決済サービスを提供できる」という三つの条件を満たす預金は、金額の上限なく全額が保護されます(預金保険機構)。利息はつきませんが、当座の決済資金や、1,000万円を一時的に超える大きな入金――退職金が振り込まれた直後など――を短い期間だけ置いておく場所としては、理にかなった選択肢になります。利息を取るか、全額保護を取るか。ここにも、目的に応じた線が一本引けます。

整理すると、お金は「いつ使うか」で三つに分けられます。すぐ使う生活防衛資金は、目減りを承知で現金のまま手元に。当分使わないお金のうち1金融機関で1,000万円までは、預金保険の傘の内側に。それを超える分は、別の銀行へ散らすか、利息と全額保護のどちらを取るかを決める。動かす・動かさないの前に、まずこの仕分けです。

今日できることを一つだけ挙げるなら、自分の口座残高を一度、銀行ごとに足し上げてみることです。どこか一行に、1,000万円を超えて積み上がっていないか。それさえ確かめれば、次に何をすべきかはおのずと見えてきます。なお、ここで挙げた保護の範囲や生活費の数字は確認時点のもので、制度の細目や金額は今後変わり得ますし、外貨や運用商品の扱いは個別性が高いので、判断に迷うときは取引金融機関や有資格の専門家に確かめてから動くのが安全です。

免責事項

本記事は、公的機関が公表する統計・制度情報をもとに、家計管理の一般的な考え方を整理したものであり、特定の金融商品の購入や預け先の選択を推奨・勧誘するものではありません。預金保険制度の保護範囲や各種金額、統計数値は本記事作成時点のものであり、制度改正や最新の公表によって変わる場合があります。外貨預金・投資商品の取り扱いや、ご自身にとって最適な資産配分は、家族構成・収入・資産状況によって異なります。実際の手続きや判断にあたっては、必ず取引先の金融機関や、ファイナンシャルプランナー・税理士などの有資格の専門家に最新情報をご確認のうえ、ご自身の責任において行ってください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、当方は責任を負いかねます。

出典

・総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均」(概況)

・預金保険機構「預金保険制度の解説」「保護の範囲」

・金融庁「預金保険制度(ペイオフ)」

最終更新:20266月 ※本記事は作成時点の公表情報に基づいて作成しています。

 

コメント

このブログの人気の投稿

取り崩す口座の順番は、翌年の保険料と窓口負担を動かす

退職金2,000万円、振込日からの三か月 ― 銀行員の親切の正体を、数字と書類で確かめた

40代からの新NISA、若い世代とは「戦い方」が違う