50代から老後資金を準備するなら、若い世代の「積立の常識」は一度脇に置く

50代から老後資金を準備するなら、若い世代の「積立の常識」は一度脇に置く

残り時間が変われば、同じグラフの読み方も変わる退職金・新NISAiDeCoを「入口」ではなく「出口」から考える

50代から老後資金を準備するなら、若い世代の「積立の常識」は一度脇に置く

「毎月コツコツ積み立てて、値動きは気にしない。」投資の入門書はたいてい、そう書く。20代や30代なら、それでいい。だが50代が同じ言葉をそのまま受け取ると、つまずく。理由は中身の良し悪しではない。手元に残っている時間の長さだ。この一点だけで、まったく同じグラフが、若い人には安心の根拠に、50代には注意の根拠に変わる。

1. 「毎月コツコツ20年」が安全に見えるのは、20年あるからだ

根拠になっている有名な図がある。金融庁が平成296月の資料「つみたてNISAについて」で示した、保有期間別の収益率の分布だ。1985年以降の各年に、国内外の株式と債券へ毎月同額を積み立て、保有期間が過ぎた時点の時価で年率を計算した、過去の実績である(金融庁「つみたてNISAについて」平成296月。20266月時点で内容を確認)。

その図では、保有5年だと年率は大きくばらつき、元本割れの年もある。ところが保有20年では、年率はおおむねプラス2%からプラス8%の幅に収まり、この過去データの範囲では元本割れがなかった。だから「長く持つほど、ばらつきは小さくなる」。これ自体は正しい。

ただし、はっきり条件がつく。その安心は「20年保有できた場合」の話だ、ということだ。

55歳で始める人に、その20年はない。65歳で受け取りを始めるなら、残りは10年。取り崩しに入るまでに、ばらつきが収束しきらない。同じ一枚の図を、若い人は「待てば平らになる」と読み、50代は「自分は平らになる前に使い始める」と読む。読み方そのものを変える必要がある。

若い世代の常識と、50代の現実を、同じ軸で並べてみる。

論点

若い世代の「積立の常識」

50代の現実

時間

20年以上ある。下げても待てる

取り崩しまで10年前後。待つ時間が短い

元手

これから月数万円ずつ作る

すでにある退職金・預金が主役

値下がり

安く買い増せる機会

取り崩し直前なら回復を待てない

ゴール

資産を増やすこと

減らさずに使い切ること

制度の使い方

とにかく長く積む

入口より出口(受け取り)を先に決める

 

「毎月コツコツ20年」が安全に見えるのは、20年あるからだ

2. 元手が月3万円の人と、退職金1,800万円の人は、同じ戦い方をしない

積立の常識は、「これから作るお金」を前提にしている。月数万円を、時間をかけて市場に入れていく形だ。

だが50代の主役は、すでに手元にあるお金であることが多い。退職金、預金、これまで積み上げた残高。性質がまるで違う。

まとまった額を一度に入れれば、その直後の下げをまともに受ける。ドルコスト平均法は、買う時期を分散して取得単価をならす方法で、これから毎月積む人にはよく効く。けれど、すでに手元にある一括資金には効きが薄い。分散すべき「時期」が、もう残っていないからだ。

NISAの枠は、年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、生涯で1,800万円、非課税は無期限だ(金融庁の新NISA制度。20266月時点で確認)。保有商品を売却すれば、それを買ったときの価格(簿価)の分だけ、生涯枠が翌年に戻る。枠は確かに大きい。

ただし、枠が大きいことと、急いで埋めることは別の話だ。枠が翌年戻っても、その年に新しく使えるのは年間360万円までで、一気に1,800万円を再投資できるわけではない。50代は「いくら入れられるか」より、「いつ、どの順番で取り崩すか」から逆にたどる。埋める速さを競う局面ではない。

元手が月3万円の人と、退職金1,800万円の人は、同じ戦い方をしない

3. iDeCoは「入口の節税」より先に「出口の時計」を見る

iDeCoの加入は、いまは65歳未満の国民年金被保険者までだ(20225月の改正で60歳未満から拡大。20266月時点で確認)。掛金が全額所得控除になる入口の節税は、たしかに大きい。

ただ、出口に時計がある。受け取りは原則60歳から75歳の間で選ぶが、60歳から受け取るには、通算加入者等期間が10年以上必要になる(iDeCo公式・国民年金基金連合会)。さらに、60歳以上で初めてiDeCoに加入した場合は、加入から5年を経過した日まで受け取れない(いわゆる「5年ルール」)。

だから50代後半で初めて始めると、この要件で受給開始が後ろにずれることがある。入口の節税だけを見て出口の時計を見落とすと、受け取りたい年に受け取れない。

なお2025年に成立した年金制度改正の関連法で、iDeCoの加入年齢を70歳未満へ引き上げる方向が決まっている。複数の金融機関の解説では202612月の施行とされているが、対象者や経過措置の細目は施行に向けて整理されている段階だ。始める前に、厚生労働省・国民年金基金連合会の最新資料で確認するのが安全だ(ここでは施行内容を断定しない)。

iDeCoは「入口の節税」より先に「出口の時計」を見る

4. 脇に置くのは三つ、残すのは一つ

ここまでを踏まえると、50代が「積立の常識」から脇に置くべきものは三つある。

ひとつめ。「値下がりは安く買える機会だ」。取り崩しの直前では、回復を待つ時間がない。

ふたつめ。「残り全期間、株式中心で長く持てばいい」。残り時間が短いほど、現金や債券の比率を上げて振れ幅を抑える設計が要る。過去データが「安心」を裏づけていたのは、あくまで20年保有の話だった。

みっつめ。「枠は早く全部埋める」。50代は埋める速さより、取り崩す順番を先に決める。

では、残すものは何か。ひとつだけでいい。分散だ。資産の種類と地域を分けることは、残り時間の長短に関係なく効く。金融庁のあの分布も、分散した積立を前提に描かれている。

50代の準備は、増やす技術ではない。減らさずに、過不足なく使い切るための設計のことだ。

次の一手は、ひとつでいい。自分が取り崩しを始めるつもりの年齢から、いまの年齢を引いてみる。残りは何年か。その数字が、上の三つのうち、どれを真っ先に脇へ置くべきかを決める。

脇に置くのは三つ、残すのは一つ

本稿は、公表資料をもとにした一般的な情報であり、特定の金融商品の推奨や個別の投資助言ではありません。税制・年金・NISAの制度内容や上限額は改正で変わります。実際の判断は、金融庁・厚生労働省・国民年金基金連合会などの最新資料を確認し、必要に応じて専門家へ相談のうえで行ってください。制度の一般的な前提については、当ブログの免責事項ページもあわせてご覧ください。

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