20代でNISAを始めたあなたへ ― これから数十年、値動きとどう付き合うか

20代でNISAを始めたあなたへ

これから数十年、値動きとどう付き合うか

20代でNISAを始めたあなたへ

二〇二六年の春に、生まれて初めて積立の設定ボタンを押したとする。その口座を最後に取り崩すのは、たぶん二〇六〇年代のどこかだ。あいだに四十回ちかい年末があり、そのたびに資産の数字は上にも下にも動く。今日目にした下げは、その四十回のうちのたった一日ぶんの出来事でしかない。それなのに私たちは、今日の数字で動揺し、今日の数字で売る。値動きと付き合うというのは、結局のところ、この時間の遠近感を手放さずにいられるかどうか、という一点に尽きるのではないか。

1. いま積み立てた一万円を取り崩すのは、四十年後のあなただ

いま積み立てた一万円を取り崩すのは、四十年後のあなただ

新しいNISAでは、保有期間の上限がなくなった(金融庁・NISA特設ウェブサイト)。旧制度のつみたてNISAにあった二十年という区切りが外れ、買った商品をいつまで持つかを、制度の側はもう決めてくれない。年間の投資枠はつみたて投資枠が百二十万円、成長投資枠が二百四十万円で、併用すれば年三百六十万円。生涯で非課税にできるのは合計千八百万円、うち成長投資枠は千二百万円までだ(いずれも金融庁、二〇二六年六月時点)。数字だけ見れば、二十代には大きすぎる枠かもしれない。

だが二十代の本当の強みは、枠の大きさではなく、複利が回りつづける年数のほうにある。仮に三十歳で始めて六十五歳で取り崩すなら、運用される時間は三十五年。その長さを前提に置くと、判断の起点が変わる。今日どこに立っているかではなく、最後にどこで降りるつもりかから、いまの値動きを見ることになる。問いの向きが逆になる、と言ってもいい。逆から見れば、初年度に三割下げようが、それは終点までの道のりの何十分の一かにすぎない。長く持てる人にとって、今年の下げは事故ではなく、四十年の道中の天気のようなものだ。

2. 一年で三割下がった年でも、相場は同じ年のうちに取り返していることがある

一年で三割下がった年でも、相場は同じ年のうちに取り返していることがある

値動きが怖いのは、下げている最中の数字を、確定した損失だと感じてしまうからだ。けれど途中の数字は損ではない。ソニー生命が示した資料(MSCIワールドインデックス・配当込み・円ベースの月次データ)によれば、リーマンショックのさなかの二〇〇九年、世界株式は二月の一か月だけで一二%近く下げたのに、その年を通してみると三三%上昇していた。一年の途中の急落と、一年の合計とが、まるで逆を向くことがある。

下げの幅そのものは、決して小さくない。コロナショックでは、日経平均株価が直前の二万三千三百八十六円から一時およそ三割下落した(ニッセイ基礎研究所、上野剛志氏のレポート)。米国のS&P五〇〇も、二〇二〇年二月十九日の最高値から三月九日までの十三営業日で一八・九%下げている(ピクテ)。リーマンショック後には、日経平均が発生からおよそ一か月で直前比およそ四割という下落も記録した(同・ニッセイ基礎研究所)。それでも、いずれの相場もその後に戻している。だとすれば、本当に向き合うべきは下げの幅ではなく、その途中でいちばん安い場所を選んで降りてしまう、私たち自身の手のほうだ。

3. 五年だけ持った場合と、二十年持った場合では、損益の散らばり方がまるで違う

五年だけ持った場合と、二十年持った場合では、損益の散らばり方がまるで違う

ここで、金融庁が繰り返し示してきた一枚のデータに戻りたい。「つみたてNISAについて」(平成二十九年六月)や、つみたてNISA早わかりガイドブックに載っている、収益率の分布だ。一九八五年以降、国内外の株式と債券に毎月同じ額を積み立てて分散投資したと仮定し、保有期間ごとの年率リターンを並べたもの。保有が五年だと、結果は年率でおよそマイナス八%からプラス十四%まで大きく散らばり、元本割れで終わった時期もあった。ところが保有が二十年になると、分布はおおむねプラス二%からプラス八%あたりに収束し、このデータの範囲では元本割れがゼロになる。

誤解しないでおきたいのは、これが「二十年持てば必ず増える」という保証ではないことだ。あくまで一九八五年以降という特定の期間の、特定の資産配分の、過去の実績にすぎない。金融庁自身、ガイドブックのなかで、将来の運用成果を約束するものではないと断っている。それでも、短く持つほど結果はばらつき、長く持つほど均(なら)されていく――この形そのものは、数十年という時間を前提にできる二十代にこそ効いてくる。同じ相場でも、五年で降りる人と二十年いる人とでは、見えている景色が違うのだ。

4. 値動きで損をするのは、値下がりそのものより、底で売ってしまった瞬間だ

値動きで損をするのは、値下がりそのものより、底で売ってしまった瞬間だ

含み損は、売らなければ確定しない。当たり前のようでいて、相場が崩れている最中にこれを守りきるのは難しい。金融庁が金融事業者の取組み状況をまとめた報告(令和二年九月)でも、長期・積立・分散と、それを長く持つことによる元本割れリスクの低減が、一つの有効な方法として挙げられ、短期売買や乗り換えを勧めない事業者の姿勢が評価されていた。

もう一つ、二十代の側に立つ事実がある。毎月同じ額を積み立てるなら、価格が下がった月ほど、同じ金額で多くの口数を買い付けることになる。単純な算術だが、下げの局面は、長く積み立てる人にとっては仕入れが安くなる局面でもあるということだ。値下がりの最中に積立を止めてしまうと、その安く買えるはずだった分を、自分から手放すことになる。これも、慌てて動くほど損をする構造の一つだろう。

裏を返せば、平均的な投資家が取りこぼすリターンの多くは、商品そのものの出来ではなく、慌てて売り買いする行動のほうから生まれている。だとすれば、値動きと付き合う技術の大半は、相場を当てることではなく、自分が底で売らずに済む仕組みを先に作っておくことだ。積立を自動にしておく。口座を開く回数を減らす。下げの年に何をするかを、下げが来る前に紙に書いておく。どれも地味で、当てる快感はない。けれど、四十年のうちに必ず来る何度かの暴落で効いてくるのは、予測の鋭さではなく、この地味さのほうだと思う。

5. 「過去はこうだった」は、「未来もこうなる」ではない

「過去はこうだった」は、「未来もこうなる」ではない

最後に、ここまでの数字すべてに付いて回る但し書きを書いておく。金融庁の分布も、世界株が下げを取り返してきた歴史も、ことごとく過去の話だ。世界経済がこの先も成長を続ける保証を、誰も差し出せない。だから私は、長く持てば大丈夫だと断定するつもりはない。できるのは、自分の手で確かめられることを確かめておくことだけだ。つみたて投資枠の対象は、長期・積立・分散に適うよう金融庁が要件を定めた投資信託に限られる。たとえば指定インデックス投信なら、信託報酬は国内資産で〇・五%、海外資産で〇・七五%(いずれも税抜)が上限とされ、二〇二六年四月末時点で対象は三百五十三本が届け出られている(金融庁「つみたて投資枠対象商品」)。この本数は届出の増減で動くので、買う前にいちど最新の一覧を見ておくといい。手数料がどれだけ結果を削るかは、目論見書を開けば自分の目で見える。

そしてもう一つ、正直に書いておくべきことがある。下げが、その年のうちに戻るとは限らない。たとえば二〇二二年は、全世界株(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)が前年末比でおよそ一七%下げ、その年のうちには取り返さなかった。これはリーマンショックの二〇〇八年(およそ四一%)以来の下落率だったという(日本経済新聞)。一年で戻る年もあれば、戻らずに越年する年もある。だからこそ、長く持てるかどうかが効いてくる。

なお、ここに並べたのは制度の内容と過去のデータを整理したものであって、特定の商品を勧める個別の助言ではない。数字はいずれも二〇二六年六月時点で確認したもので、非課税枠や対象本数、手数料の水準は今後の制度改正や届出で変わりうる。投資に元本の保証はなく、最終的にどう動くかは、あなた自身が決めることだ。

値動きとどう付き合うか、という問いに、きれいな答えを置くつもりはない。これから四十回ちかい年末のなかには、三割下げる年も、その下げを同じ年のうちに取り返す年も、戻らずに翌年へ持ち越す年も、たぶん全部来る。そのとき自分が何を見ているか。今日の数字なのか、それとも二〇六〇年代に口座を取り崩している自分のほうなのか。分かれ目は、おそらく、そこにしかない。

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