夫婦の財布は別にすべきか一緒にすべきか ― 年齢で線は引けるのか
夫婦の財布は別にすべきか一緒にすべきか
― 年齢で線は引けるのか
「50を過ぎたら財布は一緒にしたほうがいい」「若いうちは別々で構わない」。お金の話になると、こうして年齢で線を引く言い方をよく見かけます。
けれど、夫婦がお金をどう分けて持つかを実際の調査と制度に当てて見ていくと、その線は年齢のところには引かれていません。引かれているのは、共働きかどうか、収入の差がどれだけあるか、そして税と社会保険の「壁」がどこにあるか——この三つの上です。年齢は、それらが束ねられて見えるときの影にすぎません。本稿は、その影の正体を、公表されている数字でほどいていきます。
1. 「別か一緒か」に多数派と呼べる正解はない
株式会社スマートバンクが2023年に公表した夫婦のお金に関する調査では、ふたりで管理していると答えた人が47.9%、女性側が管理が23.9%、男性側が管理が22.5%でした。共同で握る世帯がおよそ半分、どちらか一方が握る世帯がおよそ半分。きれいに割れています。
「妻が家計を握るのが普通」という通念も、調査によっては妻の一括管理が最も多く出ますが、それでも半数前後にとどまり、残りは共同や分担に散らばります。民間調査は設問や定義が各社で違うため、一つの数字を金科玉条にはできません。それでも複数の調査に共通して言えるのは、支出を分け合う「別財布」は特殊でも王道でもなく、いくつかある選び方のひとつだ、ということです。だとすれば、「この年代はこの形が正しい」という前提そのものが、まず疑わしいのです。
2. 「若い夫婦ほど一緒」は年齢ではなく共働きと収入が決めている
年齢で差がつくように見えるのは確かです。ニッセイ基礎研究所が2019年にまとめた共働き世帯の家計分担の分析では、若い世帯ほど共同管理や支出分担が多く、夫婦共通のお金の割合が高い傾向が示されています。ただ同じ分析は、その差の背景にあるのは年齢そのものではなく妻の年収だ、と指摘します。若い世帯ほど妻の年収が300万円未満にとどまる割合が低く、収入があるからこそ共通の財布へ拠出できる、という筋です。年齢は、収入と共働きの状態を映す鏡として働いているにすぎません。
これは世帯の歴史とも重なります。総務省の労働力調査(詳細集計)でみると、共働き世帯が専業主婦世帯を数で上回ったのは1997年。2024年には共働きが1,300万世帯、専業主婦は508万世帯と、2倍以上の開きになりました。いま50代の人が結婚した頃と、30代が結婚した頃とでは、共働きが当たり前かどうかの前提がそもそも違います。
つまり「若い世代は別や共同が多い」のは、若さの効果ではありません。共働きが多数派になった時代に所帯を持ったからです。線は生年ではなく、どんな働き方の時代に家計を組んだかに引かれています。
3. 税と社会保険の「壁」が、片方の財布を扶養に押し込む
もう一つ、年齢より強く財布の形を縛っているものがあります。税と社会保険の「壁」です。配偶者の収入が一定額を超えると控除や扶養から外れるため、片方の収入をその手前で抑える世帯では、その分が事実上「扶養される側の小さな別勘定」として固定されます。これは年齢ではなく制度が引く線です。
しかもその線は、ここ二年で動きました。令和7年度の税制改正により、2025年分から配偶者控除を満額受けられる配偶者の年収上限は103万円から123万円へ、配偶者特別控除を満額(38万円)受けられる上限は150万円から160万円へ引き上げられました。基礎控除などの引き上げで、給与収入だけなら所得税がかからない目安も103万円から160万円へ上がっています(国税庁「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」)。
社会保険の側も動いています。扶養にとどまれる目安はなお原則として年収130万円未満ですが、2026年4月以降の認定からは、労働契約に明記のない残業代などの臨時的な収入を見込みに含めない判定に変わりました。さらに、従業員数の多い企業で適用されてきた月収8.8万円(いわゆる106万円)の賃金要件は、2025年6月13日に成立した年金制度改正法で撤廃が決まっています。施行時期は最低賃金の状況などを踏まえて公布から3年以内とされ、特定の月は一次資料では断定されていません。確実なのは、片方の収入を壁の手前で抑える設計が、これからは成り立ちにくくなる方向だ、ということです。財布を別にするか一緒にするかの損得計算そのものが、世代を問わず組み替えを迫られています。
こうして並べると、最初の問いに戻れます。年齢で線は引けるのか。引けません。
同じ50代でも、壁を越えて働く配偶者のいる共働き世帯と、片方が扶養の範囲にとどまる世帯とでは、合う財布の形はむしろ逆になります。30代でも事情は同じ。線を引いているのは生年ではなく、共働きかどうか、収入の差がどれだけあるか、子や住宅や介護といった出費の山がいつ来るか、そして制度の壁がどこにあるか——です。
だから「何歳になったら一緒にすべきか」と問うより、「いまの自分たちは、どの条件の上にいるのか」を見たほうが早い。
なお、本稿で挙げた控除額や壁の金額は2026年6月時点のもので、改正のたびに動きます。実際の損得は世帯ごとに違うため、最新の数字と自分の家へのあてはめは、国税庁や年金事務所、加入している健康保険の窓口で確かめてください。数字は集団の傾向を示すだけで、あなたの家の正解を決めるものではありません。
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