「老後に良い習慣」はどれが本物か ― 公的データで仕分けして残ったもの

「老後に良い習慣」はどれが本物か

「老後に良い習慣」はどれが本物か

公的データで仕分けして、最後まで残った4

公開日:20266月 | 出典:厚生労働省・内閣府・日本年金機構の公表資料に基づく

先に結論:公的データの裏づけが最後まで残った習慣は4

1.物差しを「長生き」ではなく、健康寿命(最後の約912年)に置く

2.筋力・バランス・有酸素を組み合わせた多要素の運動を、週3日以上

3.人と言葉を交わす場を、ひとつ持っておく

4.自分の年金記録を、年に一度つき合わせる

 健康寿命と平均寿命の差を確認する。2022年の健康寿命は男性72.57歳・女性75.45歳(厚生労働省)。

人生の最後のおよそ9年から12年は、たいてい思いどおりにならない。厚生労働省が令和612月に公表した「健康寿命の令和4年値について」によると、2022年の健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳。同じ年の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳だから、その差は男性で8.49年、女性で11.63年ある。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されずに過ごせる期間のことだ。つまり男女とも、終盤のおよそ9年から12年は、何らかの形で日常に制限がかかる。

「幸せな老後の習慣」をうたう記事は、検索すれば山ほど出てくる。早起き、朝の白湯、感謝の日記、寝る前のストレッチ。どれも悪くはなさそうに見える。ただ、いくつも並べて眺めているうちに引っかかった。このうち、いま挙げた「9年から12年」を本当に縮められると公的データで言い切れるものは、どれなのか。気になって、厚労省と内閣府の資料を表計算に並べ、ひとつずつ突き合わせてみた。先に結論を書く。世間のリストの大半は、効くかどうか確かめようのない気休めだった。裏づけが最後まで残った習慣は、拍子抜けするほど地味で、数えるほどしかない。

1.物差しは「長生き」ではなく、最後の912年をどう削るか

物差しは「長生き」ではなく、最後の9〜12年をどう削るか

平均寿命と健康寿命の差――終盤の約912年、日常生活に制限がかかる期間をどう削るかが物差しになる。

そもそも、何を「幸せな老後」の基準に置くかで、選ぶ習慣まで変わってくる。寿命そのものを延ばす話に乗ると、的を外す。見るべきは、さっきの差の部分――日常に制限のある期間を、一年でも短くできるか。そこに効くかどうかで、巷のリストを仕分ければいい。

ひとつ、希望のある数字も添えておく。この男女差は、前回2019年の調査では男性8.73年、女性12.06年だった。2022年はそれぞれ8.49年、11.63年。わずかとはいえ、不健康な期間は縮んでいる(同・厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」)。延ばすより、削れる。物差しをここに据えると、たとえば感謝日記の優先順位は、正直かなり下がる。

2.「毎日歩く」だけでは届かない公的ガイドが足した「週3日・多要素」

「毎日歩く」だけでは届かない ― 公的ガイドが足した「週3日・多要素」

「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が勧める、筋力・バランス・有酸素を組み合わせた週3日以上の多要素運動。

運動は、どのリストにも必ず入っている。問題は中身のほうだ。厚生労働省が20241月に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、高齢者について、筋力・バランス・有酸素などを組み合わせた多要素な運動を週3日以上行うことを推奨している。あわせて、筋トレを週23日、3メッツ以上の身体活動を歩行などで1日およそ40分・約6,000歩を目安に、と具体の数字まで踏み込んでいる。座りっぱなしを避けることも基本に置いている。

ここが「とにかく毎日歩こう」との分かれ目になる。歩くのは結構なことだが、それだけでは足腰の筋力も、転ばないためのバランスも、なかなか補えない。ウォーキングに、ペットボトルを持った軽い筋トレや、片足立ちのようなバランス運動を混ぜる。週に三日でいい。「混ぜる・週三日」という線が公的資料にはっきり書かれている以上、漫然と歩数だけ追う習慣より、こちらを上に置くのが筋だと思う。

3.会話の少なさと不健康は、きれいに対応していた(因果の向きは別として)

会話の少なさと不健康は、きれいに対応していた(因果の向きは別として)

「ほとんど会話をしない」割合は、主観的な健康状態が「良い」層で1.1%、「良くない」層で13.1%(内閣府・平成30年版高齢社会白書)。

意外なほど数字が出ているのが、人とのつながりだ。内閣府「平成30年版高齢社会白書」は、家族や友人との会話の頻度を、本人の主観的な健康状態別に集計している。健康状態が「良い」と答えた人で「ほとんど会話をしない」割合は1.1%。これが「良くない」と答えた人では13.1%に跳ね上がる。差は12ポイント。社会的な活動への参加でも傾向は同じで、「良い」層では36.8%が何らかの活動に加わっているのに対し、「良くない」層は11.5%にとどまった。

ただ、ここは慎重に読みたい。会話が少ないから不健康になるのか、不健康だから出かけられず会話が減るのか。実は、この白書自身が考察の中で、調査からはその因果の向きを判断できないと、はっきり断っている。律儀な話だ。それでも白書は、不活発さと健康自認の低下が悪循環になりうると指摘している。向きは決められなくても、12ポイントの開きを「気のせい」で片づけるのは無理がある。地域の集まり、長年の趣味の仲間、町内の役回り。何でもいい、人と言葉を交わす場をひとつ持っておくこと。これは「感謝日記をつける」より、ずっと地に足がついている。

4.「増やす」前に、自分の年金記録を年に一度つき合わせる

「増やす」前に、自分の年金記録を年に一度つき合わせる

「ねんきんネット」と毎年の「ねんきん定期便」で、加入記録と将来の見込み額を確認する。

お金の項目になると、リストはたいてい「投資を始めよう」へ流れる。だが順番が違う。増やし方を考える前に、自分が将来いくら受け取れるのかを正確に知るほうが先に来る。日本年金機構は、毎年の誕生月に「ねんきん定期便」を送り、「ねんきんネット」で加入記録や見込み額をいつでも確認できるようにしている。転職や退職をはさんだ時期の記録は、まれに抜け落ちたまま気づかれずにいることがあり、こうした漏れは本人が照合して初めて見つかる。年に一度、記録を開いて突き合わせるだけの作業だが、放っておけば受け取る額に響く。

なお、ここで触れているのは制度の確認方法であって、個別の資産運用や投資の助言ではない。具体的な配分は、人それぞれの事情で変わる。それでも、土台になる「自分の見込み額を毎年見る」という一手は、誰にとっても外れがなく、しかも費用がかからない。地味だが、これも残った習慣のひとつだ。

5.では、外した早起き・白湯・感謝日記は無駄なのか

では、外した早起き・白湯・感謝日記は無駄なのか

公的データの裏づけが最後まで残った、地味な4つの習慣。

ここまでで、公的データの裏づけが残ったのは四つ。物差しを健康寿命に据えること、多要素の運動を週三日、人と話す場を持つこと、そして自分の年金記録を毎年確かめること。並べてみれば、どれも派手さのない、当たり前に近い習慣ばかりだった。

では、仕分けで脇に置いた早起きや白湯や感謝日記は、まったくの無駄なのか。そうは思わない。本人が続けて気分が上向くなら、それは立派な価値だ。否定する理由はどこにもない。引っかかるのは習慣そのものではなく、それらを「これさえやれば幸せな老後が手に入る」と束ねて売る記事のほうだ。効くと確かめられたものと、本人の好みで続けるものを、ごちゃ混ぜにしないこと。その線引きさえできていれば、あとは何を足そうと自由だろう。あなたのリストには、データで残った地味な四つが、ちゃんと入っているだろうか。

よくある質問(FAQ

Q. 健康寿命とは何ですか?

A. 健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間のことです。2022年は男性72.57歳、女性75.45歳で、同年の平均寿命との差は男性8.49年・女性11.63年でした。

Q. 高齢者の運動は「毎日歩く」だけでは足りないのですか?

A. 厚生労働省のガイドは、筋力・バランス・有酸素を組み合わせた多要素な運動を週3日以上行うことを勧めています。ウォーキングに軽い筋トレや片足立ちなどを混ぜると、歩くだけでは補いにくい筋力やバランスを補えます。

Q. 年金はまず何を確認すればよいですか?

A. 「ねんきんネット」や毎年の「ねんきん定期便」で、加入記録と将来の見込み額を確認します。転職・退職をはさんだ記録は抜け落ちていることがあり、本人の照合で初めて見つかります。これは制度の確認方法であり、個別の投資助言ではありません。

出典

1.    厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(令和612月公表)

2.    厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(20241月公表)

3.    内閣府「平成30年版高齢社会白書」

4.    日本年金機構「ねんきんネット」/「ねんきん定期便」

 

免責事項

本記事は、公表されている公的統計・資料をもとに一般的な情報を提供することを目的としたものであり、医療・健康・投資・年金に関する個別の助言を行うものではありません。

健康状態や運動の可否には個人差があります。運動習慣の変更や体調への不安については、医師等の専門家にご相談ください。年金・資産運用に関する具体的な手続きや判断は、日本年金機構・金融機関・有資格の専門家にご確認ください。

記事中のデータは各資料の公表時点のものです。最新の数値は、各公的機関の発表をご確認ください。本記事の情報の利用によって生じたいかなる損害についても、当方は責任を負いかねます。

 

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