「老後破産」の手前で起きていること ― 家計の赤字が最大になるのは65〜69歳だった

 

「老後破産」の手前で起きていること家計の赤字が最大になるのは6569歳だった
「老後破産」の手前で起きていること ― 家計の赤字が最大になるのは65〜69歳だった

老後の家計は歳を取るほど苦しくなる。医療費がかさみ、介護が要り、貯えが削られる。そう思っていた。ところが総務省「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果の概要」の参考4・表1を年齢階級で開くと、数字はその向きに並んでいない。世帯主が6569歳の無職世帯(二人以上)は、可処分所得245,710円に対し消費支出296,997円。月51,287円の赤字だ。7074歳は37,245円、75歳以上は27,225円。赤字は歳とともに縮み、いちばん大きいのは退職して間もない時期だった。

1. 家計の赤字が最も大きいのは、いつか

家計の赤字が最も大きいのは、いつか

なぜ縮むのか。同じ表を収入と支出に分けて追う。消費支出は6569歳で296,997円、7074歳で285,844円、75歳以上で248,460円。可処分所得は順に245,710円、248,599円、221,235円。この間に支出は16.3%落ちるのに、収入は10.0%しか落ちていない。支出のほうが速く落ちるから、赤字が縮む。保健医療費が増えないのではない。増えてもなお、上回る速さで別の費目が縮んでいる。

すると問いは裏返る。支出は結局落ちるのに、なぜ最初の5年だけ落ちきらないのか。

2. 収入は43%落ちるのに、支出は12%しか落ちない

収入は43%落ちるのに、支出は12%しか落ちない

退職の前後を、同じ資料で見る。世帯主が60歳以上の勤労者世帯(二人以上)は、可処分所得432,730円、消費支出335,910円、平均消費性向77.6%(表22)。6569歳の無職世帯は120.9%。引き算すると、可処分所得は187,020――43.2%――減っているのに、消費支出は38,913円、11.6%しか減っていない。収入は崖から落ち、支出は坂を下りている。

ここは慎重に置く。家計調査は同じ世帯を追った調査ではない。60歳以上の勤労者世帯(平均世帯人員2.52人、世帯主の平均年齢65.9歳)と6569歳の無職世帯(同2.37人、67.2歳)は別の集団で、私が並べているのは二枚の断面にすぎない。それでも、段差の開きは断面でも動かない。

3. 借入れから申立てまで、8割超が5年以上かけている

借入れから申立てまで、8割超が5年以上かけている

もう一つ統計を重ねる。日本弁護士連合会 消費者問題対策委員会「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」。202261日から1130日までに申立てがなされた破産の確定記録を、47都道府県50地裁で無作為抽出し、有効データ1,233件を集計したものだ。申立人の年代は60歳代16.71%70歳代以上11.84%。合わせて28.55%60歳以上で、70歳代以上は1997年調査以降の最大値になった。同委員会の調査は1992年に始まっているが、比較の基準が1997年に置かれているのは、その年以降ほぼ同じ調査票を使ってきたからだ。

ただ、いちばん長く手が止まったのは年代の表ではなかった。借入れから申立てまでの期間が「5年以上」で82.81%。この82.81%は全年代を合わせた数字で、60歳以上に限った内訳ではない。それでも読み取れることはある。破産は一晩では起きない。8割超が、5年以上かけてそこへ進んでいる。

4. 借りた理由の3番目に、生活用品が過去最大で並んでいる

では、その5年に何を借りているのか。同じ調査の負債原因(複数回答)を見る。1位は「生活苦・低所得」65.86%2位は「病気・医療費」26.44%3位は「生活用品の購入」18.00%1位と3位は、いずれも1997年調査以降の最大値だ。前回の2020年調査と比べると、生活苦・低所得は61.69%から、生活用品の購入は14.76%から上がっている。

並びが指しているのは、投機でも浪費でもない。日用品を買うために借りる人が、過去いちばん多い。破産債務者の平均月収は138,038円、平均負債額は1,0842,551円。職業では「年金生活者」が7.70%、「生活保護受給者」が17.36%を占め、後者は2005年調査以降、増加傾向が続いている。

もっとも、この調査が見ているのは破産に至った人だけだ。同じ赤字を抱えたまま破産しなかった人が何人いるのかは、ここには映らない。だから「赤字が破産を生む」とは書けない。書けるのは、破産した人たちが借りた理由の上位が、生活費そのものだった、というところまでだ。

5. 分かれ目があるとすれば、退職後の最初の5年に置かれている

分かれ目があるとすれば、退職後の最初の5年に置かれている

二つの資料は、そもそも時点が違う。家計調査は2025年の平均で、破産記録の調査対象は2022年に申し立てられた事件だ。同じ人を追ったわけでもない。この重なりを因果と読むには、材料が足りない。

それでも、二つが同じ長さの時間を指しているのは動かない。赤字が最も開くのが退職後の5年で、破産の8割超が5年以上かけて進む。

「習慣」という言葉を使うなら、行き先は狭い。節約の技術ではない。この5年間に、自分の可処分所得と消費支出を並べて引き算しているかどうかだ。家計調査の数字は平均値で、6569歳の無職世帯なら平均世帯人員2.37人、持家率94.3%という前提つきの断面にすぎない。賃貸なら家賃が乗り、単身なら収入も支出も別の形になる。自分の数字に置き換えるまで、ここの金額はぜんぶ他人のものだ。私はこの記事で公的統計を並べただけで、個々の家計に何をすべきかを決められる立場にはない。返済や債務整理の判断が要る段階まで来ているなら、記録を見て話せる相手に当たったほうが早い。先の調査では、破産を申し立てた人の43.55%が法テラスを利用していた。

整理する。収入は退職で一段に落ちる。支出は数年かけてなだらかに落ちる。落差が最も開くのが6569歳で、月51,287円。破産の8割超は5年以上かけて進み、借りた理由の上位は生活費そのものだった。分かれ目があるとすれば、節約が上手いかどうかではなく、この5年を見ているかどうかだ。

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