定年後の「支出の壁」は、去年の所得でできている

 

定年後の「支出の壁」は、去年の所得でできている

定年後の「支出の壁」は、去年の所得でできている

退職1年目の税と保険料を、どの順番で組み替えるか令和84月分の医療保険料から、子ども・子育て支援金の徴収が始まった。勤め人は会社と折半する。退職した人には折半する相手がいない。

退職後の家計で最初に電卓を叩くべきは、税と社会保険料だ。自分の裁量では1円も削れない。額は、退職した年ではなく前の年の所得で決まる。

1. 非消費支出が最も重いのは6569歳、月44,400

非消費支出が最も重いのは65〜69歳、月44,400円

総務省統計局「家計調査(家計収支編)2025年平均結果の概要」参考4・表165歳以上の二人以上無職世帯の非消費支出は、6569歳が月44,400円、7074歳が39,127円、75歳以上が31,563円。壁は入口にある。

同じ資料の表2では、65歳以上の夫婦のみの無職世帯が月32,850円。直接税12,547円、社会保険料20,296円。6569歳との差は月11,550円、年138,600円。着地点より、そこへ至る数年が重い。

2. 上乗せされた0.23%は勤め人の率で、国保の率ではない
上乗せされた0.23%は勤め人の率で、国保の率ではな

こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」によれば、被用者保険は国が一律の支援金率を示すこととされ、令和8年度は0.23%。労使折半なので在職中の本人負担は0.115%相当だ。

国民健康保険は違う。支援金額は市町村の条例で所得等に応じて決まる。茅ヶ崎市の令和8年度なら、所得割100分の0.26、均等割984円、平等割1,119円、限度額3万円という独立した区分だ。折半する事業主もいない。0.23%を国保料に当てはめても答えは出ない。初年度の率でもあり、令和10年度にかけて上がる。

3. 1月から4月に辞めると、住民税は最後の給与から一括で引かれる

1月から4月に辞めると、住民税は最後の給与から一括で引かれる

住民税は前年の所得に翌年度課される。収入が消えても、請求は去年の給与に届く。

地方税法第321条の52項ただし書。翌年11日から430日の退職なら、残りの月割額は申し出がなくても、531日までに支払われる給与や退職手当から一括徴収される。ただし給与や退職手当が月割額の全額を超える場合に限られ、足りなければ普通徴収に切り替わる。死亡退職も対象外だ。

6月から12月の退職は普通徴収が原則で、申し出れば一括徴収も選べる。5月退職は最終月分を通常どおり特別徴収される。退職日の月で、手取りの谷が動く。

4. 退職1年目、任意継続と国保の差は165,220円だった

退職1年目、任意継続と国保の差は165,220円だった

条件を固定する。神奈川県茅ヶ崎市、令和8年度の料率。前年の給与収入600万円、夫60歳・妻58歳、妻に収入なし。

給与収入600万円の給与所得控除は、収入金額×20%+44万円で164万円。給与所得は436万円になる(国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」。改正で動いたのは最低保障額55万円→65万円で、この区分の式は変わらない)。基礎控除43万円を引いた393万円が所得割の基礎だ。

医療給付費分を書き下す。所得割393万円×6.8%=267,240円、均等割23,464×2人、平等割28,586円。計342,754円。同じ形で後期高齢者支援金等分(所得割2.66%)134,024円、子ども・子育て支援金分(0.26%)13,305円、介護納付金分(2.55%、夫婦とも4064歳)127,105円。合計617,188円。

任意継続は式が違う。退職時の標準報酬月額に料率を掛けるが、協会けんぽでは32万円で頭打ちになる(全国健康保険協会)。神奈川支部の令和8年度は健康保険9.92%、支援金0.23%、介護1.62%で計11.77%。32万円に掛けて月37,664円、年451,968円。妻は被扶養者のままで追加はない。差は165,220円。

退職一時金は国保の所得割に入らない。茅ヶ崎市は、一時金で受け取る退職所得を総所得金額等に含めないと明記している。年金形式なら雑所得として算定に入る。

5. 神奈川の9.92%は据え置きの特例で、差分は先送りされている
神奈川の9.92%は据え置きの特例で、差分は先送りされている

9.92%には注釈がつく。協会けんぽ神奈川支部「神奈川支部の令和8年度保険料率に係る特例的な取扱いについて」によれば、本来は9.96%と算定されていた。平均保険料率を0.1%下げるなかで上昇する支部について、厚生労働省から据え置きの要請があった。差分は次年度以降、複数年度で調整して平準化する措置が検討されている。

これが二年計画に効く。任意継続の標準報酬月額は退職時のもので固定されるが、保険料は固定ではない。協会けんぽは、保険料率や標準報酬月額の上限が変われば保険料も変わると明示している。据え置き分が来年の上げ幅として戻れば、2年目を451,968円で置く見積もりは下振れする。

6. 2年目に計算し直すと、差は40万円台になって向きが変わる

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国保は毎年、前年の所得で計算し直す。所得がほぼゼロの年を挟めば、残るのは均等割と平等割だけだ。茅ヶ崎市の令和8年度で夫婦2人分なら、均等割85,622円、平等割49,355円。合計134,977円。

ここに軽減がかかる。茅ヶ崎市の令和8年度基準では、世帯の前年中の総所得金額等が43万円以下なら、均等割と平等割が7割軽減される。134,977円の3割でおよそ40,500円。任意継続の451,968円との差は41万円を超える。1年目に165千円安かった側が、2年目には41万円高くなる。

落とし穴もある。茅ヶ崎市は、未申告者がいる世帯は軽減できず、所得がなかった場合も市・県民税の申告が必要だと明記している。申告を怠れば軽減は外れ、134,977円がそのまま来る。

抜けられるようになったのは最近だ。令和411日施行の健康保険法等の改正で、任意継続の資格喪失事由に本人の申し出が加わった。喪失日は申出が受理された月の翌月1日。41日に国保へ移るには3月中に申し出る。

この逆転が素直に効くのは年度末退職の場合だ。年度途中で辞めると、国保料が所得ゼロの年を映すのは3年目。任意継続は2年で切れる。

7. 妻の国民年金は月17,920円、ただし申請で止められる場合がある

妻の国民年金は月17,920円、ただし申請で止められる場合がある

日本年金機構によれば、国民年金の第3号被保険者は、第2号被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者を指す(原則として年収130万円未満)。第2号とは厚生年金保険の加入者だ。夫が退職すれば第2号でなくなる。健康保険を任意継続し、妻が被扶養者のままでも、年金は別に動く。

妻は第1号になり、60歳まで自分で納める。令和8年度は月17,920円、年215,040円。市区町村の窓口で種別変更の届出が要る。会社はやってくれない。

使える制度はある。日本年金機構によれば、失業等を理由とする特例免除は前年所得が多くても、失業等のあった月の前月から申請できる。世帯主や配偶者がいる場合は、その人も所得要件を満たすか失業等の特例に該当している必要がある。夫が退職して特例に該当すれば、妻の申請でも夫の前年所得を除いて審査される。ただし全額免除期間の老齢基礎年金は全額納付の2分の1。追納は10年以内。

介護保険料も別に届く。第9期(令和68年度)の第1号保険料の基準額は全国平均で月6,225円、最高の大阪市9,249円と最低の東京都小笠原村3,374円で2.7倍開く(厚生労働省、令和6514日公表)。

ここまでの数字は、茅ヶ崎市と協会けんぽ神奈川支部の令和8年度の料率によるものだ。率も軽減の判定も市町村ごとに違い、制度も毎年度動く。個別の判断は、加入先の健保と自治体の窓口で確かめてほしい。

やることは二つ。退職日を決める前に、市区町村の国保窓口へ前年の源泉徴収票を持ち、来年度の保険料の試算をもらう。任意継続の月額は加入先の健保が出す。二つを1年目と2年目の二列で並べる。列が交差する月が乗り換えの期限だ。脱退は申し出の翌月1日からしか効かないので、期限は1か月前倒しになる。

固定費を削る話は、そのあとでいい。

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