新NISAの成長投資枠、30代・40代は何に使うのか

 

NISAの成長投資枠、30代・40代は何に使うのか

240万円の枠が主役になるのは、月10万円を超えた人と、まとまったお金が入った年です年240万円の枠が主役になるのは、月10万円を超えた人と、まとまったお金が入った年です

金融庁が202673日に公表した「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和712月末時点)」を開き、電卓を叩きました。口座数は2,821万、買付額の累計は71兆円(同調査・別紙4NISAの利用状況の推移(グラフ)」)。ここまでは新聞の見出しにもなる数字です。知りたかったのは、その先でした。2025年の1年間に成長投資枠で買われた約12.5兆円を口座数で割ると、1口座あたり44万円ほどにしかなりません(第一ライフ資産運用経済研究所〈旧・第一生命経済研究所〉・鄭美沙「2025年のNISA利用状況を読み解く(2)」2026813日。金融庁調査の集計値で、買付のなかった口座も分母に含みます)。年240万円の枠に対して、平均は2割に届いていないのです。

30代か40代で「成長投資枠を何に使えばいいのか」と探しているなら、まずこの数字を見ておいてください。枠は大きく、使っている人は少ない。そのずれの中に、答えの大半があります。

1. つみたて投資枠だけで、月10万円まで積み立てられます

つみたて投資枠だけで、月10万円まで積み立てられます

制度の骨組みから確かめます。2024年からのNISAでは、つみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円、生涯の非課税保有限度額が合計1,800万円で、そのうち成長投資枠で使えるのは1,200万円までです(金融庁「NISAを知る」NISA特設ウェブサイト)。年120万円を12で割ると、月10万円。毎月同じ投資信託を積み立てる使い方なら、月10万円までは成長投資枠を一切使わずに済みます。

では、実際の利用者はどのくらい投資しているのか。金融庁調査を集計した前掲の第一ライフ研レポートによると、2025年に一度も買付がなかった口座が全体の36.6%、年間買付額が060万円の口座が35.4%です。足すと72.0%。NISA口座の7割は、年60万円、つまり月5万円以下のペースか、まったく動いていません。20歳代に限れば、060万円の層だけで47.9%を占めます。

それなら成長投資枠は誰が使っているのでしょう。同じレポートは、2025年の年間買付額18.7兆円のうち成長投資枠が67%、つみたて投資枠が33%だったと報告しています。金額では成長投資枠が2倍。月5万円以下の人が多数派なのに、買われている金額は成長投資枠のほうが多い。この食い違いは、成長投資枠が「毎月の積立の延長」ではなく、一括買付と個別株の置き場になっていることを示しています。金融庁の同サイトも、つみたて投資枠で積立を続けながら成長投資枠で個別銘柄に一括投資できる、と両者の役割を分けて説明しています。

2. 1,800万円を埋め終わる年齢を、あなたの月額から逆算する

1,800万円を埋め終わる年齢を、あなたの月額から逆算する

成長投資枠の使い道を考える前に、確かめておきたい数字が一つあります。今の月額で生涯枠1,800万円が埋まるのは、何年後か。年間投資枠と生涯枠は簿価(買った金額)で数えられ、値上がりしても消費されません(金融庁「NISAを知る」)。だから割り算だけで出ます。

毎月の投資額

年額

1,800万円に達するまで

35歳から始めた場合

45歳から始めた場合

3万円

36万円

50

85

95

5万円

60万円

30

65

75

10万円

120万円

15

50

60

15万円

180万円

10

45

55

30万円

360万円

5

40

50

筆者計算。年額を一定とし、途中の売却や枠の復活は考慮していません。

5万円なら30年。35歳で始めれば65歳、45歳なら75歳です。月10万円で15年。表の上から3行は、つみたて投資枠の年120万円に収まっています。成長投資枠に手が届くのは、月15万円の行から下です。

月額が10万円以下なら、生涯枠を使い切るより先に、多くの場合65歳のほうが来ます。その状態で成長投資枠に「特別な使い道」を探す必要はありません。枠が余っているのではなく、つみたて投資枠のほうがまだ広いのです。逆に月額が10万円を超える人、あるいは月額は小さくても後述するまとまったお金が入る人にとって、成長投資枠は避けて通れない入口になります。

3. 成長投資枠で買われたものの41.2%は、国内の個別株でした

成長投資枠で買われたものの41.2%は、国内の個別株でした

成長投資枠は、何を入れる箱になっているのか。前掲レポートによる2025年の商品別内訳は、投資信託51.1%、国内株式41.2%、海外株式3.9%です。上場株式の合計は45.1%で、2024年の43.5%から増え、伸び幅は20歳代の4.4ポイントに次いで30歳代が3ポイントでした。同じ年代で、個別株の比率が静かに上がっています。

個別株を止めるつもりはありません。ただ、NISA口座に個別株を置くときだけ効いてくる税務上の性質が一つあり、これを知らずに置いている人が多いように感じます。

損失は「なかったもの」として扱われます

国税庁の解説(タックスアンサーNo.1535NISA制度」)によると、NISA口座で生じた損失は税務上なかったものとみなされ、特定口座などで出た利益と相殺(損益通算)できず、翌年以降への繰越しもできません。検算します。60万円で買った株が30万円に下がり、売却したとします。特定口座なら、同じ年に別の取引で30万円の利益があれば、損と利益が相殺されて税金はゼロです。NISA口座で同じことが起きると、30万円の損は消え、別の30万円の利益にはそのまま20.315%、60,945円の税金がかかります。値上がりしたときの非課税と、値下がりしたときの相殺不可は、表と裏の関係にあります。

個別株を買うなら特定口座、という単純な話ではありません。ただ、値動きの大きいものを非課税口座に集めるほど、この裏面が出やすくなる。30代・40代で個別株を成長投資枠に入れ始めた人には、この性質を一度、自分の言葉で説明できるか確かめてほしいと思います。

同じ投資信託を、成長投資枠で買ってもかまいません

もう一つ、見落とされがちな点があります。成長投資枠から除外されるのは、整理・監理銘柄、信託期間20年未満の投資信託、毎月分配型の投資信託、デリバティブ取引を用いた一定の投資信託等です(金融庁「NISAを知る」注記)。つみたて投資枠の対象になっている投資信託は、この除外要件のどれにも当たりません。ですから、月10万円を超えた分を、いつもの投資信託のまま成長投資枠で買い足すことは、制度上まったく問題がないのです。成長投資枠だから「成長しそうな別のもの」を選ばなければならない、という決まりはどこにもありません。

4. まとまったお金が入った年に、成長投資枠は主役になります

まとまったお金が入った年に、成長投資枠は主役になります

月額が10万円以下でも、成長投資枠が前に出てくる年があります。ボーナス、満期になった保険、親からの贈与や相続、転職時の一時金。一度にまとまった金額を投資に回すなら、それは積立ではなく一括買付で、成長投資枠の出番です。年240万円が上限ですから、たとえば手元に400万円あっても、その年に入れられるのは240万円で、残りは翌年に回すことになります。

そして、30代・40代にとって成長投資枠がいちばん役に立つのは、おそらく「使って、戻す」場面です。生涯枠は簿価で管理され、売却すると翌年以降にその簿価の分だけ復活します。金融庁のサイトにある例では、100万円で買った商品を売ると、売却時の時価にかかわらず翌年に100万円分が戻ります。子どもの進学、住宅の頭金、親の介護。30代・40代は、お金が出ていく年が何度か来る年代です。そのたびに取り崩しても、生涯枠は減らない。ただし年間投資枠は復活しません。戻ってきた100万円を翌年に再投資するときも、その年の120万円と240万円の中で買うことになります。まとまった額を戻すには、成長投資枠のほうが器として大きい、というだけの話です。

なお、この「翌年」という区切りは、近いうちに動くかもしれません。金融庁は令和8年度に続き、令和9年度の税制改正要望でも、売却した分の非課税保有限度額を売った年のうちに復活させるよう求めています(金融庁「令和92027)年度税制改正要望について」20268月公表)。ただし、この記事を書いている時点では要望の段階で、法律は翌年復活のままです。仮に実現しても、戻るのは簿価の分であり、年間投資枠の上限が増えるわけではありません。

5. 使わずに空けておいても、失うものはありません

使わずに空けておいても、失うものはありません

最後に、逆のことを書きます。年間投資枠は翌年に繰り越せません。だから「今年の成長投資枠240万円を空けておくのはもったいない」と感じる人がいます。この感覚が、無理に個別株を買う動機になっていないでしょうか。第一ライフ研は前掲レポートの(1)で、「限度額まで早く埋めた方がよい」というSNSの発信に押されて、生活費を切り詰めてまで投資額を増やす人がいる可能性を、「NISA貧乏」という言葉とともに指摘しています(鄭美沙「2025年のNISA利用状況を読み解く(1)」2026710日)。

しかし、生涯枠1,800万円のほうは、何年かけて埋めても構いません。2024年からのNISAは制度が恒久化され、非課税保有期間も無期限になりました(金融庁「NISAを知る」)。今年の240万円を使わなくても、あなたの生涯枠は1円も減らないのです。減るのは、その年に投資しなかった分の投資機会だけで、それは月額を上げるか上げないかの問題であって、枠の問題ではありません。第2節の表でいえば、あなたの行が一段上に上がるかどうか。それを決めるのは家計の余力で、成長投資枠が空いているかどうかではないはずです。

私は今回、金融庁の公表資料と国税庁の解説を突き合わせ、割り算と掛け算を自分でやり直しただけです。ここに書いたのは20269月時点の制度の一般的な整理で、税制は毎年の改正で変わりますし、あなたの収入や家族構成、他の口座の状況によって、適した配分は変わります。特定の商品を勧める意図はなく、投資の結果について責任を負うこともできません。税務の扱いで迷う点があれば、税理士や税務署に確認してください。

そのうえで、一つだけ問いを置いて終わります。あなたの毎月の投資額を10万円で割ったとき、答えは1を超えていますか。超えていないなら、探すべきなのは成長投資枠の使い道ではなく、その割り算の答えを1に近づける方法のほうかもしれません。

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