孫の教育費、祖父母が出すと損する場合と得する場合の境界線
孫の教育費、祖父母が出すと損する場合と得する場合の境界線
「必要な都度・直接」という一行が、無税と課税を分ける
二〇二六年三月三十一日。教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置が、延長されずに終わった。祖父母が孫の学費を最大千五百万円までまとめて専用口座に預け、非課税にできた制度だ。四月以降、これを新しく使うことはできない。財務省「令和八年度税制改正の大綱」(令和七年十二月公表)に、適用期限を延長せず終了する、と明記されている。
では、孫に教育費を出したい祖父母は、これからどうすればいいのか。
答えは、制度が終わる前から、ずっと同じ場所にあった。渡し方を一つ変えるだけだ。
1. まとめて渡す非課税の特例は、もう新しく使えない
一括贈与の特例は平成二十五年に始まり、何度か期限を延ばしてきた。直近の延長は令和五年度改正で、期限は令和八年三月末まで。そして令和七年十二月に公表された令和八年度の大綱で、延長せず終了することが決まった。根拠条文は租税特別措置法第七十条の二の二。制度の正式な内容は国税庁タックスアンサーNo.4510に載っている。
三月末までに口座へ預けた分は、引き続き非課税で使える。だが四月以降は、新規の口座開設も、既存口座への追加拠出も、できない。新しい入り口だけが閉じた、ということだ。
終了の背景として指摘されるのは、利用が伸び悩んだこと、富裕層に偏った利用が格差の固定化につながるという懸念、そして――教育費をその都度渡す贈与は、そもそも非課税だ、という事実だ。専用の特例を使わなくても、多くの家庭は困らなかった。
2. 「必要な都度、直接」――この一行が無税と課税を分ける
国税庁のタックスアンサーNo.4405を開く。夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から、生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものには、贈与税がかからない。根拠は相続税法第二十一条の三第一項第二号。祖父母は孫の直系尊属であり、扶養義務者にあたる。
ここに金額の上限は書かれていない。専用口座も、事前の手続きもいらない。
ただし、条件が一行ある。同じNo.4405にこうある。贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られる、と。だから生活費や教育費の名目で受け取っても、それを預金したり、株式や不動産の買入資金に充てた場合には、贈与税がかかる。
線を引いているのは金額ではない。渡し方だ。
3. 同じ百万円でも、渡し方で税金がつく場合とつかない場合
国税庁の説明を、具体的な渡し方に置き換えてみる。
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渡し方 |
贈与税の扱い |
根拠 |
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学費の請求書が来るたび、祖父母が学校へ直接振り込む |
かからない(金額の上限なし) |
No.4405 |
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学期ごとに必要な実費を孫や親に渡し、すぐ学費へ充てる |
かからない |
No.4405 |
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数年分の学費をまとめて孫の口座へ入れ、当面は置いておく |
置いた分は課税対象 |
No.4405ただし書き |
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教育費の名目で渡したお金を、孫が貯金や投資へ回す |
回した分は課税対象 |
No.4405ただし書き |
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手続きが面倒で、ある程度まとめて渡したい |
もらう人一人あたり年110万円までは基礎控除で非課税 |
No.4402 |
表の上半分と下半分を分けるのは、三つの言葉だけだ。都度。直接。実際に使う。これが揃えば無税、どれかが欠けると課税の話になる。手続きの手間を惜しんでまとめて渡したいなら、暦年課税の基礎控除、もらう人一人あたり年百十万円の範囲に収めるのが無難だ。
4. すでに特例口座を持つ家庭が気をつける「残額」
ここからは、三月末までに特例口座を作った家庭の話だ。使い残しには、二つの出口で税金がつく。
一つ目は、契約が終わるとき。孫が三十歳に達するなどして口座が閉じると、残ったお金は贈与税の対象になる。しかも令和五年四月以降に贈与された残額は、受贈者の年齢にかかわらず一般税率で計算される。かつての特例税率は使えなくなった。
二つ目は、祖父母が亡くなるとき。令和三年四月以降に預けた分は、その時点の管理残額が相続財産に足し戻される。そして孫が受け取ると、相続税が二割加算される(相続税法第十八条)。ただし、その孫が代襲相続人であれば二割加算はない。さらに令和五年四月以降の拠出分は、祖父母の相続税の課税価格の合計が五億円を超えると、孫が二十三歳未満で在学中であっても課税対象になる。
「非課税の制度だから、相続税もかからない」。この思い込みが、いちばん高くつく。
5. では、どう渡すのが損をしないのか
整理すると、こうだ。
損をしないのは、必要な都度、直接、実際の費用に充てる渡し方。上限はなく、手続きもいらない。残すのは記録だけでいい。
損をするのは、将来の分を先に動かして、どこかに「残す」やり方。残った瞬間に、贈与税か相続税の話が始まる。
もっとも、ここで書いたのは制度の骨格にすぎない。何が「通常必要と認められる」かは、孫の進学状況や祖父母の資力など一切の事情を勘案して個別に判断される(相続税法基本通達二一の三-三、二一の三-四)。迷う金額なら、最寄りの税務署か税理士に確認してから動くのが確実だ。本稿は一般的な情報の整理であり、個別の課税判断を保証するものではない。
次の一手は、ひとつでいい。次に孫の学費の請求書が届いたら、孫の口座を経由させず、祖父母が学校へ直接振り込む。領収書を一枚、手元に残す。それだけで、贈与税の心配はたいてい消える。
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