仮面夫婦を続けるか、離婚するか ― その判断は「気持ち」では決まらない

仮面夫婦を続けるか、離婚するか

その判断は「気持ち」では決まらない

仮面夫婦を続けるか、離婚するか

夜の十時。リビングの灯りはついているのに、会話はありません。同じ家の中を、別々の時間が流れている。外から見れば落ち着いた夫婦。その静けさの重さを知っているのは、中にいる人だけです。

続けるか、別れるか。あなたはこの問いを、何度も胸の中で往復させてきたはずです。そして決まらない。気持ちが固まらないから決まらないのだと、自分を責めてさえいるかもしれません。

でも、少しだけ見方を変えてみませんか。この判断の枠組みは、気持ちより先に、法律と数字が決めています。しかも202641日、離婚をめぐるお金のルールが大きく変わったばかりです。何が残り、何を分け、いつまでに動くのか。先に「実寸」を測ってから気持ちの話に戻っても、遅くはありません。

1. 続けると決めた場合、手元に何が残るのかご存じですか

続けると決めた場合、手元に何が残るのかご存じですか

婚姻関係が続いている限り、あなたは「配偶者」という立場が持つ権利を保有し続けます。遺族厚生年金の対象であること。相続人であること。相続税の配偶者の税額軽減。家の中がどれほど冷えていても、戸籍の上の在籍が続く限り、これらは生きています。この「離婚しない自由」の中身は、過去記事「卒婚という選択『離婚しない自由』はどんな夫婦に成立するのか」で制度ごとに点検しましたから、ここでは繰り返しません。

ひとつだけ付け加えるなら、続けるという選択は、感情の上では停滞でも、制度の上では積み上げの継続だということです。婚姻期間が延びれば、後で触れる年金分割の対象期間も、財産分与の対象になる財産も、静かに増えていきます。我慢の年月は、少なくとも数字の上では消えていません。

2. 別れる場合、分け方は「相等しい」と条文に書かれました

別れる場合、分け方は「相等しい」と条文に書かれました

20245月に成立した改正民法(令和6年法律第33号)が、202641日に施行されました。財産分与のルールが、条文の言葉ではっきりしています。

改正後の民法7683項は、財産の取得や維持に対する夫婦それぞれの寄与の程度について、「その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」と定めました。いわゆる2分の1ルールの明文化です。婚姻中に二人で築いた預貯金や住まいは、収入を得ていたのが一方だけでも、原則として半分ずつ。家事や育児という形の寄与が、収入と同じ土俵で数えられるということです。あわせて同項には、考慮される要素――婚姻期間、婚姻中の生活水準、それぞれの年齢や心身の状況、職業や収入――も並びました。

なお実務では、分与の対象は別居の時点までに築かれた財産とするのが一般的とされます。つまり、関係が冷えたまま同居が続いている間も、分けるべき財産は今日も増えている計算になります。

3. 年金も分けられますただし、動くのは平均で月33,000円です

年金も分けられます ― ただし、動くのは平均で月3万3,000円です

「離婚しても年金は分けてもらえる」。よく聞く言葉ですが、実寸を見ておきましょう。

分けられるのは婚姻期間中の厚生年金の記録で、方法は二つあります。合意分割は、当事者の合意か裁判手続で按分割合を決めるもので、上限は50%3号分割は、200841日以後にあなたが第3号被保険者(会社員などに扶養される配偶者)だった期間について、相手の合意なしに2分の1ずつ分けられる仕組みです(日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割」)。

では、実際にいくら動くのか。厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和5年度)によれば、分割を受けた側の平均年金月額は、国民年金を含めて分割前57,979円、分割後91,081円。差はおよそ月33,000円です(20266月に同概況で確認)。

33,000円は、小さくありません。けれど、月9万円で暮らせるかと問われれば、それはまた別の問いです。年金分割は離婚後の生計を保証する制度ではなく、婚姻期間の記録を公平に分け直す制度にすぎません。この実寸を知らないまま「年金がもらえるから」と踏み出すのと、知ったうえで決めるのとでは、同じ離婚でも別の決断になります。

4. 期限の時計は、あなたが迷っている間も進んでいます

期限の時計は、あなたが迷っている間も進んでいます

今回の改正でいちばん知られていないのが、期限の話かもしれません。

財産分与を家庭裁判所に請求できる期間は、これまで離婚の時から2年でしたが、202641日以後に離婚した場合は5年に延びました(改正民法7682項)。年金分割の請求期限も同じく、離婚した日の翌日から5年です(こちらは2025年成立の年金制度改正法による延長で、202641日施行)。ただし、2026331日以前に離婚した方は、どちらも従来どおり2年のまま(法務省の改正法解説資料・日本年金機構)。離婚した日付ひとつで、持ち時間が倍以上違います。

では、5年に延びたからゆっくりでいいのか。そうは言い切れません。相手の預貯金や収入の資料は、同居している間でなければ集めにくいものです。さらに年金分割には厳しい例外があって、相手が亡くなった場合、請求できる期間は死亡日から1か月に縮みます(日本年金機構)。迷う時間そのものは、誰にも責められるものではありません。ただ、その間も時計が進んでいることだけは、知っておいてほしいのです。

続けるにせよ、別れるにせよ、ここに挙げた数字は、あなたの家では別の値を取ります。だからもし、今夜ひとつだけ動くとしたら。年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」を出して、情報通知書を取り寄せてみてください。婚姻期間中の厚生年金記録が書面で届きます。交付までおよそ34週間、50歳以上なら希望すれば分割後の年金見込額も付けてもらえます。離婚を決めていない段階でも請求できるとされていますから、窓口か郵送で、詳しい手順は年金事務所に確かめてください。離婚届より先に、この一枚です。

なお、ここに書いた制度と数値は20266月時点のもので、施行されたばかりの改正を含みます。あなたのケースでどう扱われるかは、年金事務所や法務省の案内、必要なら弁護士や社会保険労務士に確認してください。気持ちの整理は、実寸を手にしてからでも間に合います。むしろ、そのほうが早く済むかもしれません。

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