DV・モラハラから離れると決めたあと ― 相談・避難・離婚・生活再建までの現実の道のり
DV・モラハラから離れると決めたあと
相談・避難・離婚・生活再建までの現実の道のり
配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は、令和5年度で12万6743件。内閣府が開いたDV相談プラスにも、同じ1年で4万4972件が届いた(いずれも内閣府男女共同参画局、令和6年12月公表)。件数は10年以上、高い水準のまま動かない。
この記事は、迷っている人に向けたものではない。すでに「離れる」と決めた人に向けて書く。決めたあとに要るのは、覚悟ではなく順番だ。何を先にして、何を後に回すか。その順番が、安全と暮らしの立て直しの両方を左右する。
家を出ることから始めない。最初に置くのは相談だ。理由は単純で、別れを切り出す前後が、いちばん危ない時間だからだ。準備のないまま動くと、居場所も、お金も、子どもの手当も、あとから取り返すことになる。だから、この記事は順番の地図として読んでほしい。
先に、全体の順番だけ示しておく。
1 相談を、避難より先に置く
2 持ち出すのは、衣類より通帳と記録から
3 女性相談支援センターと一時保護でできること
4 保護命令は六か月から一年に延びた
5 住民票を伏せて、手当で暮らしを立て直す
1 相談を、避難より先に置く
相談先は三つ。番号を覚えておけばいい。
DV相談プラスは0120-279-889。24時間つながる。チャットとSNSは正午から午後10時まで、10か国語に対応する(内閣府男女共同参画局)。電話が難しければ、文字でいい。
どこに相談すればいいか分からないときは、DV相談ナビ。短縮番号#8008を押すと、最寄りの配偶者暴力相談支援センターに自動でつながる。ただし各機関の受付時間内に限る(内閣府男女共同参画局)。
身の危険が今あるなら、迷わず110番。これは相談ではなく通報だ。
配偶者暴力相談支援センターは、令和5年度で全国に313か所ある(内閣府男女共同参画局)。相談を受け、安全の確保や一時保護を行い、自立に向けた情報も出す。根拠は配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)第3条だ。
相談を先に置く理由は、統計ではなく構造にある。別れを告げる瞬間、相手は支配を失う。最も激しく出るのがこの局面だ。だから、出る前に専門家と段取りを組む。電話一本は、家を出る決断とは別物だ。かけても、何も決まらない。決めるのは自分のままでいい。名乗らなくても、話は聞いてもらえる。
2 持ち出すのは、衣類より通帳と記録から
避難のとき、服や思い出の品から手が伸びる。順番が逆だ。先に押さえるのは、自分の身分と、暴力の証拠と、お金の証になるものだ。
身分の関係。健康保険証、年金手帳または基礎年金番号の分かるもの、マイナンバーカード、運転免許証。子どもがいれば母子健康手帳と、学校の連絡先。
お金の関係。通帳、キャッシュカード、印鑑、有価証券。相手に知られていない自分名義の口座を一つ作っておくと、後で動きやすい。
証拠の関係。これが後で効く。診断書、けがの写真、壊された物の写真、暴言や脅しの録音、日付の入ったメモ。精神的な攻撃も記録に残す。次節で触れる保護命令の対象は、令和6年4月の法改正で精神的な被害にも広がった(警察庁・令和6年版犯罪被害者白書)。記録は、その申立てを支える材料になる。
全部を一度に運べないことは多い。優先順位は、身分、お金、証拠、衣類の順。命の危険があるときは、何も持たずに出ていい。物はあとで取り戻せる。安全は取り戻せない。
3 女性相談支援センターと一時保護でできること
行き場がないとき、公的な避難先がある。
令和6年4月、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(困難女性支援法)が施行された。これにより、長く「婦人相談所」と呼ばれてきた機関は「女性相談支援センター」に、婦人相談員は女性相談支援員に、名称と役割が改められた(厚生労働省)。
このセンターは、相談に応じ、支援対象者とその同伴家族の安全確保と一時保護を行い、心身の回復を図り、自立を促す(厚生労働省・女性支援新法の基本方針)。要となるのは、すべての女性相談支援センターが、DV防止法の配偶者暴力相談支援センターを兼ねている点だ(厚生労働省)。相談と避難の窓口が、同じ場所にある。
一時保護は、本人だけでなく、連れている子どもも一緒に受け入れる。期間は数日から数週間が多い。施設の所在地は、安全のため原則として明かされない。
子連れで、もう少し腰を据えて立て直したいなら、母子生活支援施設という選択肢もある(児童福祉法)。母と子が一緒に暮らしながら、生活と自立の支援を受ける場だ。
4 保護命令は六か月から一年に延びた
避難しても、追ってくる相手はいる。そこで要るのが裁判所の保護命令だ。
保護命令は、地方裁判所が相手に出す。被害者の申立てが要る。自動では出ない。令和5年に成立し令和6年4月に施行された改正で、制度は大きく変わった(警察庁・令和6年版犯罪被害者白書/内閣府)。変わった点を並べる。
接近禁止命令の期間は、6か月から1年に延びた。離婚の手続きや生活の立て直しに6か月では短い、という当事者の声が通った。
退去等命令は原則2か月のままだが、住んでいた家が被害者の単独名義(所有か賃借)なら、申立てにより6か月とする特例ができた。家を売る、契約を解く、その時間を確保するためだ。
対象が広がった。これまで保護命令は、身体的な暴力か、生命・身体への脅迫に限られていた。改正で、自由・名誉・財産を害すると告げて脅し、心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合も加わった。深夜に長時間責め立てる、裸の写真をばらまくと脅す。そうした精神的な攻撃が射程に入った。
電話等禁止命令の対象行為も増えた。緊急時以外の連続したSNSの送信、深夜早朝(午後10時から午前6時)の送信、GPSで位置情報を無断で取る行為などが加わった。子どもへの電話等禁止命令も新設された。
違反への罰も重くなった。1年以下の拘禁刑・100万円以下の罰金から、2年以下・200万円以下に引き上げられた(令和7年6月から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されている)。
保護命令は強い道具だが、誰にでも自動で出るものではない。申立ての要件があり、相談機関に相談した際の状況が審理で参照される。だから第1節の相談が、ここでも効いてくる。
5.住民票を伏せて、手当で暮らしを立て直す
逃げたあと、最も恐れるのは居場所が割れることだ。住民票を移すと相手にたどられるのではないか。そこを塞ぐ制度がある。
住民基本台帳事務における支援措置。総務省が定める仕組みで、申し出れば、住民票の写しや戸籍の附票の交付が制限され、閲覧の台帳からも記録が外される。加害者からの請求は、不当な目的があるものとして交付されない(総務省)。
期間は、申し出を受理した日から1年。終了の1か月前から延長できる。利用には、警察などの相談機関で相談していることが前提になる(総務省)。ここでも相談歴が土台になる。
お金の柱は児童扶養手当だ。ひとり親家庭などに、国が支給する(こども家庭庁)。令和7年4月分からの全部支給額は、第1子の本体額が月4万8040円、第2子以降の加算額が1万1340円(こども家庭庁、令和7年度)。額は物価に応じて毎年見直され、前年の所得によって全部支給・一部支給・支給停止が決まる。第3子以降の加算も、令和6年11月分から第2子と同額に引き上げられた(こども家庭庁)。
離婚が成立していなくても、受け取れる場合がある。平成24年8月から、父または母が裁判所の保護命令を受けた児童も、支給の対象に加えられた(内閣府男女共同参画局)。別居の段階でも、保護命令があれば道が開く。手当の事務では、暴力を逃れた母子の居所を相手に漏らさないよう留意する、という通知も出ている(内閣府男女共同参画局)。
別居中の生活費も請求できる。婚姻している間は、収入の多い側が少ない側の生活費(婚姻費用)を分担する義務がある(民法760条)。話し合いがつかなければ、家庭裁判所の調停で決める。
当面の資金が要るなら、母子父子寡婦福祉資金の貸付がある。母子及び父子並びに寡婦福祉法に基づく無利子または低利の貸付で、就学や生活、転宅などに使える。窓口は自治体だ。
ここまでの数字と制度は、2026年6月の時点で各機関の公表資料に当たって確かめたものだ。金額も要件も毎年動くうえ、個々の事情で扱いは変わる。ここに書いたのは一般的な道筋であって、あなたの状況そのものへの助言ではない。実際に動くときは、市区町村やセンター、必要なら弁護士や警察の窓口で、その時点の額と手続きを確かめてほしい。
順番をもう一度だけ。相談、持ち出すものの確保、避難、保護命令、住民票の保護、手当。決めたあとにやることは多い。だが、全部を今日やる必要はない。
今日できる一手だけ挙げる。0120-279-889に、かけてみること。家を出なくてもいい。深夜でもいい。話したうえで、今は何もしないと決めても構わない。順番を組み始める場所は、その電話の向こうにある。
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