実家じまい、空き家を高く売った人と捨て値で売った人の違い

実家じまい、空き家を高く売った人と捨て値で売った人の違い

実家じまい

同じ2,000万円で売っても、手取りは300万円以上ずれる。鍵は、売る前に決める順番と、二つの期限

 

同じ家を、同じ2,000万円で売る。それでも、最後に手元へ残る額は300万円以上もずれることがあります。実家を片づけて空き家を手放した人たちの後始末を、登記事項証明書と確定申告書のレベルまで突き合わせてみました。すると、差を生んでいたのは売却価格ではありませんでした。売る前に、何を、どの順番で決めたか。そこで手取りが割れています。高く売れた人と、捨て値で手放したように見える人。その違いの大きな部分は、交渉の巧拙でも運でもなく、税制の二つの期限と、登記というひと手間の有無で説明がつきます。根拠の条文と数字を一つずつ当てながら、その分かれ道を順にたどります。

1. 同じ2,000万円でも、手取りは345万円ずれる

同じ2,000万円でも、手取りは345万円ずれる

まず、差がどこで生まれるのかを数字で押さえます。相続した実家を2,000万円で売り、仲介手数料や解体費などの譲渡費用が200万円かかったとします。購入時の契約書が見当たらず、取得費がわからない。この場合、国税庁のタックスアンサーNo.3258「取得費が分からないとき」に従い、概算取得費として売値の5%、つまり100万円を取得費に置きます。譲渡所得は、2,000万円から取得費100万円と譲渡費用200万円を引いた1,700万円。ここまでは、誰が計算しても同じです。

 

分かれ道は、この先にあります。被相続人の居住用財産(空き家)に係る3,000万円の特別控除(国税庁No.3306)を使える人は、1,700万円がまるごと控除枠の内側に収まります。課税される譲渡所得はゼロ。税額もゼロ。手元には、売値から譲渡費用を引いた1,800万円が残ります。

同じ条件で、この特例を使えなかった人はどうか。1,700万円が、そのまま長期譲渡所得として課税されます。国税庁No.3208が定める長期譲渡所得の税率は、所得税15%と住民税5%。これに復興特別所得税が所得税額の2.1%上乗せされ、合わせて20.315%です。1,700万円に掛けると、およそ345万円。手取りは1,455万円まで落ちます。

売値は一円も違わないのに、手取りは345万円ずれました。冒頭で「300万円以上」と丸めたのは、控えめに見積もってのことです。条件次第では、この345万円がそっくり差になる。「高く売った」と「捨て値で売った」の体感の正体は、しばしば交渉ではなく、この税額です。では、特例を使えた人と使えなかった人を分けたものは何か。期限でした。

2. 令和91231日という、空き家特例の締め切り

令和9年12月31日という、空き家特例の締め切り

 

3,000万円の特別控除には、見落とされやすい時間の制約が二重にかかっています。確認した20266月の時点で、国税庁No.3306が定める適用期間は、平成2841日から令和9年(2027年)1231日まで。これがひとつ目の壁です。もともとは令和5年末で終わる予定でしたが、令和5年度の税制改正で4年延長され、いまの期限に落ち着きました。

ふたつ目は、相続した人ごとにかかる3年の枠です。相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の1231日まで。ここを過ぎると、特例は使えません。たとえば令和6年中に親を亡くしたなら、令和91231日が事実上の締め切りになります。二つの期限は、早く来るほうが効きます。

建物そのものにも条件があります。対象は、昭和56531日以前に建てられた、いわゆる旧耐震の家屋。区分所有登記がされていないこと。相続が始まる直前まで、被相続人がひとりで住んでいたこと。そして売却代金が1億円以下であること。耐震基準を満たさない家は、耐震改修をするか、取り壊して更地にしてから売るのが原則でした。ただし令和611日以後の譲渡からは、売買契約に基づいて買主が翌年215日までに改修か取り壊しを済ませる場合も、対象に加わりました。買い取り業者に渡して先方に壊してもらう、という道が現実的になったわけです。

ひとつ、注意があります。令和611日以後の譲渡で、その家屋と敷地を相続した相続人が3人以上いる場合、控除額はひとり当たり3,000万円ではなく2,000万円に下がります。きょうだい3人で均等に相続して売ると、各自の枠が2,000万円になる。先ほどの1,700万円なら2,000万円でも収まりますが、譲渡所得がもっと大きい家では、ここから課税が始まります。控除を使うには、物件のある市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受け、確定申告に添える必要があります。

3. 売値の5%しか取得費にできない、最悪の入口

最悪の入口

特例を使えなかった人には、もうひとつ重い負担がのしかかります。取得費の問題です。譲渡所得は売値から取得費と譲渡費用を引いて計算しますが、この取得費がわからないと、先ほどの概算取得費、すなわち売値の5%しか引けません。

 

何を意味するか。たとえば3,000万円で売れた土地建物の、買ったときの値段がわからなければ、取得費はわずか150万円です。差し引き2,850万円ほどが、課税の土台に乗ります。実際にはもっと高く買っていたとしても、その記録が出てこなければ、5%まで押し戻される。これは、親世代が昭和の時代に買った家でよく起きます。地価の高い時期に取得していた土地ほど、立証できないことの損は大きくなります。

救いもあります。相続した不動産の所有期間は、被相続人が取得したときから通算されます(国税庁No.3306No.3208の取扱い)。だから相続してすぐ売っても、親が長く持っていれば長期譲渡所得の扱いになり、所有5年以下にかかる短期の高い税率は避けられます。とはいえ、税率が長期で済んでも、課税の土台そのものが膨らんでいては効きません。

だから、実家を片づける段階でまず探すべきは、家具でも思い出の品でもありません。購入時の売買契約書や領収書です。これが一枚出てくるかどうかで、最終的な手取りが百万円単位で動く。捨て値で手放したように見える人の何割かは、値段の交渉で負けたのではなく、紙が見つからなかったのです。

4. 令和64月から、登記しないまま放置できなくなった

令和6年4月から、登記しないまま放置できなくなった

ここまでは売るときの税の話でした。けれど、その手前に、登記という関門が立つようになりました。令和641日に施行された改正不動産登記法で、相続登記が義務になっています。

 

法務省の説明によれば、相続や遺言で不動産を取得した相続人は、自分のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産を取得したと知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法第76条の21項)。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法第164条第1項)。しかもこの義務は、施行日より前に起きた相続にも及びます。すでに名義が親や祖父母のままになっている家は、令和9331日までに登記する必要があります。

これが空き家の売却と直結します。登記名義が亡くなった親のままでは、その家は売れません。買い手に所有権を移せないからです。相続登記には遺産分割協議が要り、きょうだいの合意が要る。話がまとまらないうちに10万円以下の過料がちらつき、慌てて、安くてもいいから片づけたいと買い取りに流す——この「急がされて、値段を詰める前に手放す」流れが、捨て値の典型的な経路です。もっとも、過料はいきなり科されるわけではありません。登記官が違反を把握すると、相当の期間を定めて申請を促し、それでも正当な理由なく応じない場合に、管轄の地方裁判所へ通知される運びになっています。期限に間に合わないときは、ひとまず「相続人申告登記」で自分が相続人だと申し出ておけば、過料は避けられます。ただしこれは暫定的な対応で、正式な相続登記の代わりにはなりません。売るには、結局あらためて登記が要ります。

5. 勧告された空き家は、土地の固定資産税が6倍になる

勧告された空き家は、土地の固定資産税が6倍になる

最後に、放置そのもののコストです。空き家を空き家のまま抱え続けると、ある時点から維持費が跳ね上がる仕組みがあります。

 

建物が建っている土地は、住宅用地の特例で固定資産税が軽くなっています。固定資産税は評価額に1.4%を掛けて計算しますが、200平方メートルまでの小規模住宅用地は、その課税標準が6分の1に圧縮される。空き家でも、家屋が建っていればこの軽減が効いていました。

ところが、20231213日に施行された改正空家等対策特別措置法で、前提が変わりました。国土交通省によれば、従来は「特定空家」だけが軽減の対象外でしたが、改正で「管理不全空家」という区分が新設されています。放っておくと特定空家になりそうな状態の家も、市区町村から勧告を受ければ、住宅用地特例から外れる。特例が外れれば課税標準は元に戻り、土地の固定資産税は最大で6倍に跳ねます(あわせて都市計画税の軽減も外れます)。勧告のあとも動かなければ、命令、さらには行政代執行へと段階が進み、解体費用まで請求されかねません。

つまり、いつか売ろうと思いながら草も刈らずに放置していると、売れる前に税負担だけが重くなる。結局は足元を見られ、安く手放すことになりかねません。高く売った人は、この逆ザヤが効き始める前に動いていました。

実家じまいで先に確かめておきたいのは、不動産屋の査定額でも、解体費の見積もりでもありません。まず登記事項証明書を一通取り、相続がいつ始まったか、その家がいつ建てられたか、という二つの日付を押さえることです。相続日が3年の枠と特例の期限のどこに位置するか。建築年月日が昭和56531日より前か、後か。この二つで、使える特例と残された時間がほぼ決まります。なお、本稿の税額は要件を満たす前提でのおおまかな試算で、実際の適用可否や金額は物件ごとの事情で変わります。空き家特例や概算取得費を使えるかどうかは、確定申告の前に、管轄の税務署か税理士に確かめておくのが確実です。紙一枚、日付ひとつ。手取りを決めるのは、たいていそこです。


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