老後の住まいをどう選ぶか

 

老後の住まいをどう選ぶか

老後の住まいをどう選ぶか

サ高住・有料老人ホーム・自宅リフォームを費用と体の状態で比べる

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、有料老人ホーム、自宅のリフォーム。老後の住まいで名前がよく挙がるこの三つを、パンフレットに載る月額だけを見比べても判断がつかないと感じ、それぞれの制度概要と根拠になっている法令を取り寄せて、費用の出方と法律の両面から並べ直してみました。先に手応えを言うと、名前で選ぶと外します。サ高住と有料老人ホームは名前こそ違っても実態が重なる部分があり、逆に同じ「有料老人ホーム」でも中身がまるで違う。分かれ目になるのは看板ではなく、いまの体の状態、お金がどう出ていくか、そして自宅に住み続けたいか、という三つでした。順に確かめていきます。

1. サ高住は施設ではなく賃貸住宅——安否確認と生活相談が要件

サ高住は施設ではなく賃貸住宅——安否確認と生活相談が要件

最初に押さえたいのは、サ高住が制度上は「施設」ではなく賃貸住宅だという点です。根拠は高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法、平成13年法律第26号)で、平成23年に登録制度が設けられました。国土交通省の制度概要(登録基準の一覧)によれば、登録の要件は居室の床面積が原則25平方メートル以上でバリアフリーであること、そして少なくとも状況把握(安否確認)と生活相談のサービスを備えること。ただし床面積には例外があり、居間・食堂・台所などの共用部分を入居者が共同して使うのに十分な広さが確保されている場合は、居室を18平方メートル以上まで緩めることができます(この共同利用型の面積の数え方は、令和34月施行の共同省令改正で明確化されました)。契約も独特で、権利金のような金銭は受け取れず、敷金・家賃・生活支援サービス費とその前払金だけが認められます。入り口は、見守りの付いた賃貸マンションに近いと考えると分かりやすい。

誤解が生まれやすいのは介護です。一般型のサ高住では、介護そのものは住まいに付いてきません。要介護になれば、外部の訪問介護やデイサービスを自分で契約して使う形になり、家賃や食事はそもそも介護保険の対象外です。反対に、食事や介護を住宅事業の一部として提供するサ高住は、次に見る有料老人ホームに該当し、扱いが変わります(厚生労働省の整理でも、有料老人ホームに当たるサ高住は特定施設になり得るとされています)。「サ高住だから安心」ではなく、そのサ高住が介護をどう賄う型なのかを確かめる必要があります。

2. 有料老人ホームの三類型——分かれ目は「特定施設」の指定

有料老人ホームの三類型——分かれ目は「特定施設」の指定

有料老人ホームは老人福祉法第29条第1項に基づく住まいで、食事・介護・家事・健康管理のいずれか(複数でも可)を提供する施設を指します。厚生労働省は、介護の提供方法の違いから三つの類型に分けています。介護付、住宅型、健康型です。

ただ、実務で効いてくるのは名前よりも「特定施設入居者生活介護」の指定があるかどうかでした。介護付と名乗れるのは、この指定を都道府県から受けた施設だけ(厚労省の資料では「介護付きホーム」と呼びます)で、介護は施設の職員が直接担い、看護・介護職員は要介護者おおむね3人につき1人以上といった人員基準も定められています。費用の仕組みもここで分かれます。介護付は介護保険の報酬が「包括報酬」——要介護度に応じて1日あたりの金額が定額で決まる方式で支払われるため、要介護度が同じであれば介護費は月ごとにほぼ一定です。指定のない住宅型では、介護が必要になっても施設が直接は行わず、入居者が外部の訪問介護などを使った分だけ払う——構図はサ高住の一般型とよく似ています。健康型は自立した人向けで、介護が要る状態になると住み替えや退去を求められることがあり、施設数自体も多くありません。介護保険法第8条第11項が定める特定施設の仕組みを備えているか。ここが、同じ有料老人ホームの看板の下でも中身を分ける線でした。

3. 自宅リフォームは「住み続ける人」の制度——介護保険で20万円まで、9割が戻る

自宅リフォームは「住み続ける人」の制度——介護保険で20万円まで、9割が戻る

三つ目の自宅リフォームには、住み替えにはない後押しがあります。介護保険の住宅改修です。要支援・要介護の認定を受けた人が対象で、支給限度基準額は要介護度に関わらず一律20万円。20万円の工事なら原則9割にあたる18万円が戻り、残る自己負担は2万円で済みます。所得によって給付は8割(上限16万円)、7割(上限14万円)に下がります。金額の根拠は厚生労働省の告示(支給限度基準額は平成12年厚生省告示第35号)にあり、厚労省の解釈通知(平成1238日・老企第42号)でも「20万円の住宅改修を行った場合、通常、保険給付の額は18万円となる」と説明されています。対象の工事も決まっていて、手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更、開き戸から引き戸などへの扉の取り替え、和式から洋式への便器の取り替え、これらに付帯する工事です(対象の種類は平成11年厚生省告示第95号)。原則として一人一回ですが、要介護度が三段階以上重くなったときや転居したときは、改めて20万円まで使えます。

ここで手続き上の落とし穴が一つあります。この給付は、工事に着手する前に市区町村へ事前申請し、保険給付として適当な工事かどうかの確認を受けておく必要があります(老企第42号)。承認を受ける前に着工してしまうと、要件を満たす工事であっても給付が受けられません。もう一つ見落とされがちなのが対象の住まいで、給付を受けられるのは被保険者証に記載された自宅に住んでいる場合に限られ、施設や病院に入っている間は対象外です。同じ通知でも、もともと高齢者向けに造られている有料老人ホームなどの改修は原則として想定していないとされています。つまりこの20万円は「自宅に住み続ける」という選択にひも付いた制度で、住み替えを選んだ時点で使えなくなる。リフォームか住み替えかで迷うとき、この一点は費用計算に響いてきます。なお金額や自己負担割合、自治体独自の上乗せ助成には改正や地域差があるため、着工前に市区町村の介護保険窓口や地域包括支援センターで確かめるのが確実です。

4. 費用の出方が三者三様——一時金か、月々か、使った分か

費用の出方が三者三様——一時金か、月々か、使った分か

費用は総額の大小より、どういう形で出ていくかの違いで捉えたほうが実態に合います。取り寄せた制度概要をもとに、その出方の型を一枚の表に並べ直すと、質の差が見えてきます。

住まいの型

主な費用の出方

介護費のかかり方

根拠・特徴

サ高住(一般型)

敷金+月額(家賃・管理費・生活支援サービス費)

外部の介護保険サービスを使った分

賃貸借契約(高齢者住まい法)

有料老人ホーム/介護付(特定施設)

前払金または月額

要介護度に応じた包括報酬でほぼ定額

介護は施設職員(介護保険法第8条第11項)

有料老人ホーム/住宅型

前払金または月額

外部の訪問介護等を使った分

介護は外部サービス(老人福祉法第29条)

自宅リフォーム

工事費(介護保険対象分は20万円まで9割給付)

在宅の介護保険サービスを使った分

自宅に住み続けることが前提(厚労省 住宅改修)

 

表で分かるのは、介護費の課金方式が二つに割れることです。介護付(特定施設)は要介護度に応じた包括報酬でほぼ定額なので、重くなっても月々の介護費が読みやすい。一方、住宅型やサ高住の一般型、そして自宅は、外部の在宅サービスを使った分だけ払うので、介護が軽いうちは安く済みますが、重度化して利用が増えると膨らみます。まとまった資産を前払金に充てて月々を軽くするのか、資産は手元に残して家賃や利用料として月々払っていくのか。お金の置き方の設計思想が、住まいの型によって違うわけです。実際の金額は施設や契約ごとに大きく開くので、ここでは相場の数字ではなく、この出方の型で見比べることをおすすめします。

5. 体の状態・お金・住み続けたい気持ち——三つの軸で自分の場合に当てはめる

体の状態・お金・住み続けたい気持ち——三つの軸で自分の場合に当てはめる

ここまでの制度を、冒頭に挙げた三つの軸に戻して整理します。一つ目は体の状態です。いま自立していて当面も大きな不安がないなら、自宅のリフォームで住み続ける、あるいは見守りのあるサ高住という選択が素直です。逆に、要介護度が上がることがある程度見込まれるなら、重度化しても月々が読める介護付(特定施設)が候補に入ります。二つ目はお金の出方です。退職金などまとまった資産を住まいに充てて月々の負担を抑えたいのか、資産は動かさず年金の範囲で月々を回したいのか。前者は前払金型、後者は賃貸・月払い型と相性が良い。三つ目は、自宅に住み続けたいかという気持ちで、ここには20万円の住宅改修が自宅居住とひも付いているという制度の事情も重なります。

では、あなたにとっての正解はどれか。それをここで一つに決めることはしません。三つの軸のどれを重く見るかは人によって違い、同じ要介護度でも、資産と家族の状況が変われば答えは反対に振れます。手元の年金額と資産、いまの介護度、そして住み慣れた家をどうしたいか。この三つを紙に書き出して、上の表の「費用の出方」に自分の数字を当てはめてみてください。判断の材料はそこに出そろうはずです。個別の制度の可否や最新の金額は、最後は市区町村の窓口や地域包括支援センターで確かめるのが早道です。

コメント

このブログの人気の投稿

取り崩す口座の順番は、翌年の保険料と窓口負担を動かす

退職金2,000万円、振込日からの三か月 ― 銀行員の親切の正体を、数字と書類で確かめた

40代からの新NISA、若い世代とは「戦い方」が違う