親が元気なうちに確かめておきたいこと

親が元気なうちに確かめておきたいこと

亡くなったあと家族が探し回らないために

親が元気なうちに確かめておきたいこと


法務局のサイトと国税庁のタックスアンサーを並べて開き、手元の紙に「死亡から日」と書き出してみた。3か月、4か月、10か月、3年。期限の数字が、思っていたより早く、しかも次々に来る。たいていの人がこの短さに気づくのは、亡くなってから慌てて調べ始めたときだ。

相続というと、遺産をどう分けるかの話だと思われがちだ。だが実際に残された家族が最初にぶつかるのは、分け方ではない。「どこに、何が、どれだけあるのか分からない」という、もっと手前の問題である。通帳の在りか。借金の有無。不動産の権利証。遺言があるのかないのか。これらは、本人が元気なうちに一度聞いておけば一行で済む。聞きそびれると、亡くなったあとに家族が役所と銀行を何往復もして探し回ることになる。

だから、順番を逆にして考えてみる。亡くなったあとに家族が必ず探すものは何か。そこから逆算して、今のうちに確かめておきたいことを、五つに絞って並べてみたい。

1. 口座は死亡と同時に止まるだから「どの銀行に、いくつ」をまず聞く

. 口座は死亡と同時に止まる ― だから「どの銀行に、いくつ」をまず聞く

金融機関は、名義人が亡くなったことを知った時点で口座を凍結する。家族が届け出なくても、新聞のお悔やみ欄など別の経路で把握すれば止まる。凍結されると、遺産分割が終わるまで原則として引き出せない。

ここで救いになるのが、20197月に始まった預貯金の仮払い制度だ。遺産分割の前でも、相続人が単独で一定額まで払い戻しを受けられる。金額は「相続開始時の預貯金額×3分のその人の法定相続分」で計算し、1つの金融機関あたり150万円が上限とされる(民法909条の2、および同条に規定する法務省令で定める額を定める省令)。葬儀費用や当面の生活費を賄うための制度である。

ただ、これは「どの銀行に口座があるか」を家族が知っていて初めて使える。本人しか知らないネット銀行や、長く取引のない地方の信用金庫の口座は、そもそも存在に気づかれない。だから聞いておくのは残高ではなく、まず「取引している金融機関の名前」でいい。通帳とキャッシュカードがどこにしまってあるか、それだけでも後の負担がまるで違う。

2. 借金と保証は、3か月で取り返しがつかなくなる

借金と保証は、3か月で取り返しがつかなくなる

預貯金や不動産はプラスの財産だが、相続は借金もそのまま引き継ぐ。住宅ローンの残り、事業の借入れ、そして見落とされがちなのが、他人の借金の連帯保証人になっているケースだ。

借金のほうが多いとき、相続人は相続放棄や限定承認を選べる。問題はその期限である。民法9151項は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に家庭裁判所へ申述しなければならないと定めている。通常はこれが、亡くなったことを知った日からの3か月だ。法務省の案内でも、相続放棄は民法938条に基づく手続きで、この熟慮期間内に行う必要があるとされている。

冒頭にメモした「3か月」が、これである。短い。葬儀を出し、四十九日を済ませ、ようやく書類に向き合えるころには、もう半分が過ぎている。だからこそ、生前に「保証人になっていないか」「人に貸している・借りているお金はないか」を一度聞いておく価値がある。借金は、隠す本人ほど家族に言いづらい。けれど、言わないまま遺されたほうが、家族にはずっと重い。

3. 不動産は「在りか」より「権利証と名義」を聞いておく

不動産は「在りか」より「権利証と名義」を聞いておく

実家の土地と建物。これも、亡くなったあとに名義を書き換える「相続登記」が必要になる。そしてこの登記が、202441日から義務化された。

不動産登記法76条の21項により、相続で不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならない。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になる(同法1641項)。しかも、この義務は施行日より前に相続した不動産にもさかのぼって適用される。その場合は、令和9年(2027年)331日までか、取得を知った日から3年以内のいずれか遅い日までに登記すればよい、と法務省は案内している(法務省「相続登記の申請義務化について」)。冒頭の「3年」は、この登記の期限だ。

ここで聞いておきたいのは、土地がどこにあるか、という大きな話ではない。固定資産税の納税通知書がどこに届いているか。権利証(登記識別情報)をどこに保管しているか。先祖名義のまま手つかずになっている土地はないか。――この種の「祖父の代から登記していない山林」が出てくると、戸籍を何代分もさかのぼる作業が発生する。これは、本当に、しんどい。先に在りかが分かっているだけで、入口がまるで違う。

4. 遺言があるかないかで、残りの作業量が変わる

遺言があるかないかで、残りの作業量が変わる

遺言書が一通あるだけで、その後の手続きは大きく変わる。誰が何を引き継ぐかが決まっていれば、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)を省ける場面が増えるからだ。

遺言には主に二つある。公証人が作る公正証書遺言は、原本が公証役場に保管される。もう一つの自筆証書遺言は、これまで自宅保管が多く、紛失や書き換えのリスクが指摘されてきた。そこで2020710日から、法務局が自筆の遺言書を預かる「自筆証書遺言書保管制度」が始まった。保管の申請手数料は13,900円で、ここに預けた遺言は、相続開始後に家庭裁判所の検認を受ける必要がない(法務局「自筆証書遺言書保管制度について」)。

聞いておきたいのはシンプルだ。遺言を書いているか、書いていないか。書いているなら、それはどこにあるのか。公証役場なのか、法務局なのか、それとも机の引き出しなのか。遺言があるのに誰も存在を知らなければ、無いのと同じになってしまう。場所だけは、生前に共有しておくに越したことはない。

5. 10か月という締め切りは、悲しむ時間を待ってくれない

10か月という締め切りは、悲しむ時間を待ってくれない

最後に、税金の期限を置いておく。相続税の申告と納付は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う(国税庁タックスアンサーNo.4205「相続税の申告と納税」)。遺産分割がまとまらなくても、この期限は自動では延びない。

それより前に、もうひとつ税の期限がある。故人に確定申告が必要な所得があった場合、亡くなったことを知った日の翌日から4か月以内に、相続人が代わりに申告する「準確定申告」だ(国税庁タックスアンサーNo.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」)。冒頭にメモした「4か月」と「10か月」は、この二つを指している。自営業や不動産収入、医療費控除の対象になりそうな年があったかどうかは、本人にしか分からないことが多い。

10か月と聞くと余裕がありそうだが、財産の全体像を把握し、相続人を確定し、評価して、分け方を決めて、と進めると、決して長くない。そして家族はその間ずっと、悲しみと事務作業を同時にこなすことになる。締め切りは、こちらの気持ちを待ってくれない。

なお、ここで挙げた金額や期限は、この記事を書くにあたって法務省・国税庁・法務局の公開資料を直接あたり、確認できた時点の内容である。税や登記の扱いは改正されることがあり、家庭ごとに事情も違う。実際に動くときは最新の一次資料で確かめ、込み入った話は税理士・司法書士・弁護士に当たってほしい。

こうして五つ並べてみると、聞いておきたいことの多くは、結局「お金がどこにあるか」に行き着く。けれど、本当に確かめたいのはお金そのものではないのかもしれない。

通帳の在りかを聞くことは、その人がどう働き、何を残そうとしてきたかを聞くことでもある。遺言の有無を聞くことは、誰に何を渡したいかという意思を聞くことだ。事務手続きの顔をしているが、中身は案外そういう話なのだと思う。

あなたが親に最後に「お金のこと」を聞いたのは、いつだろうか。そしてそれは、聞きにくい話だっただろうか。それとも――案外、聞いてみれば、向こうも話したがっていた話だっただろうか。


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