親の介護負担がきょうだいで不公平なとき

親の介護負担がきょうだいで不公平なとき

相続で埋め合わせる手立てと、その限界

親の介護負担がきょうだいで不公平なとき


親の介護を、きょうだいの中であなたが一人で背負ってきた。通院の付き添い、夜中のおむつ替え、ケアマネジャーとの長い電話、週末ごとの帰省。その何年かは、いざ相続の話し合いの席に着いたとき、いったいいくらに見積もられるのでしょうか。

「これだけやったのだから、その分は受け取れるはず」。そう考えるのは当たり前のことです。けれど、民法を開いて条文を一つずつ当たっていくと、話はそれほど単純ではありませんでした。報われる道は、確かに用意されています。ただし、自動では一円も動きません。今日はその道筋と、正直な限界を、順を追ってお話しします。

介護した分だけ、相続で多くもらえるそれは本当でしょうか

介護した分だけ、相続で多くもらえる ― それは本当でしょうか

結論から言えば、半分は本当で、半分は誤解です。介護をしたという事実だけで、相続分が自動的に増えることはありません。

民法877条は、直系血族ときょうだいに、互いを扶養する義務を定めています。親の世話をすること自体は、法律が家族に通常期待している範囲だとみなされやすい。だから「親を看たのだから当然もらえる」とは、残念ながらなりません。

上乗せが認められるのは、その貢献が「寄与分」(民法904条の2)として評価されたときだけです。そして実務では、長く介護したからといって寄与分が自動的に認められるわけではない、という考え方が共通の前提になっています。まずこの一点を、心づもりとして持っておいてください。

「寄与分」が認められるのは、どんな介護でしょうか

「寄与分」が認められるのは、どんな介護でしょうか

民法904条の2が求めるのは、ただの貢献ではなく「特別の寄与」です。被相続人との身分関係から通常期待される程度を、はっきり超えていること。ここが分かれ目になります。

実務でよく目安にされるのが、三つの条件です。被相続人が要介護2以上に相当する状態だったこと(要介護認定の結果が一つの目安とされます)。介護が片手間ではなく、生活の大半を占めるほど専従的だったこと。そして無償、あるいはそれに近い形だったこと。

逆に認められにくいのは、入院中や施設入所中の世話です。その期間は被相続人自身が費用を負担しているため、あなたの介護が「財産を維持した」とは評価されにくく、原則としてその期間は介護日数に算入されません。月に12回の見舞いや付き添いも、扶養義務の範囲内とされがちです。実際、静岡家庭裁判所沼津支部の平成21327日の審判は、子の配偶者が約13年にわたり通院や入浴の世話をしていた事案でも、被相続人が退院後は自分でトイレに立ち食事もとれる状態だったことなどから、同居の親族として通常期待される扶養の範囲を超えるとはいえないとして、寄与分を認めませんでした。専従性のハードルは、思っているより高いのです。

もう一つ、見落とされがちな点があります。寄与分が認められても、扶養義務にあたる部分は差し引かれることがある、ということです。たとえば子3人のうち1人が親を扶養していた場合、その3分の1は本人が当然負うべき扶養分とみなし、残りを寄与分として評価する、という調整がなされることもあります(扶養型の寄与分でよく用いられる考え方です)。あなたの努力がまるごと金額になるわけではない、と先に知っておくと、後で落胆せずに済みます。

寄与分は、いくらになるのでしょうか

寄与分は、いくらになるのでしょうか

金額には、実務で広く使われる計算式があります。報酬相当額 × 療養看護の日数 × 裁量割合。これが基本の形です。

報酬相当額は、職業の介護人を雇えばかかったはずの日当で、介護保険の介護報酬基準が下敷きになります(基準は3年ごとに改定されます)。ただし、この基準は資格を持つ専門職への報酬を前提にしているため、資格のない親族が介護した場合は一定程度減額されることがあります。裁量割合というのは、満額をそのまま認めるのは行き過ぎだとして掛ける調整値で、裁判例ではおおむね0.50.8が用いられる傾向にあります。ただしこれは確定値ではありません。最後は家庭裁判所が一切の事情を見て決めます。

試しに検算してみます。日当6,000円、介護日数900日、裁量割合0.7なら、6,000×900×0.7で約378万円。あくまで計算上の一例です。実際の審判例を一つ挙げると、大阪家庭裁判所の平成1928日の審判は、認知症となった親を相続人が約3年間にわたって介護した事案で、親族による介護であることを踏まえて1日あたり8,000円程度と評価し、876万円の寄与分を認めています。

数字を見て胸が高鳴るかもしれません。でも、ここに釘を刺しておきます。遺贈や遺留分との兼ね合いで、実際の取り分は計算結果より低くなることがあります。寄与分は、相続開始時の財産から遺贈分を控除した額を超えて主張できるものではない、という上限もあります(民法904条の2)

きょうだいが「そんなの認めない」と言ったとき、どこへ持ち込むのでしょうか

きょうだいが「そんなの認めない」と言ったとき、どこへ持ち込むのでしょうか

寄与分は、まず遺産分割協議の場で、あなた自身が主張するところから始まります。誰かが代わりに認めてくれるわけではありません。そして原則として、相続人全員の合意が要ります。

話がまとまらないとき、または話し合いそのものができないとき。その先が家庭裁判所です。遺産分割の調停を申し立て、調停でも折り合わなければ審判に移ります。裁判所が寄与の時期・方法・程度や相続財産の額など一切の事情を見て、寄与分を定めます(民法904条の22)

ここで効いてくるのが記録です。いつ、どんな介護をしたかを書いた介護日誌。おむつ代や薬代、通院のタクシー代の領収書。要介護認定の結果やカルテ。これらが、あなたの何年かを、言葉から数字へ翻訳する材料になります。記憶は証拠になりにくい。紙が、あなたを助けます。

ただ、ここから先は個別性の強い領域です。どの介護がどう評価されるか、いくらが妥当かは、家族構成や財産の状況によって大きく変わります。この記事はあくまで一般的な制度の説明であって、あなたの個別のケースについての法的な判断ではありません。金額の交渉や申し立てまで進むなら、早めに弁護士に相談してください。費用の入口で迷うなら、国の機関である法テラス(日本司法支援センター)が、収入と資産が基準以下などの条件を満たせば、同じ案件で3回まで無料の法律相談や、弁護士費用の立替えの窓口になります。

介護したのが相続人でない人兄の妻などだったら

介護したのが相続人でない人 ― 兄の妻などだったら

ここは制度がまったく別物に切り替わります。たとえば長男の妻が義父を長年介護しても、彼女は相続人ではありません。だから寄与分(904条の2)は使えない。長く報われないままだった、その不公平を埋めるために作られたのが「特別寄与料」です。

2019(令和元年)71日に施行された改正相続法で新設されました(民法1050)。相続人以外の親族が、無償で療養看護などをして被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合、相続人に対して金銭を請求できます。対象は民法725条が定める親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族)で、内縁の妻は含まれません。

そして、この制度には厳しい時計がついています。家庭裁判所への請求の期限は、相続の開始および相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年のいずれか早い方まで(民法10502項ただし書)。きょうだい間の揉め事が落ち着くのを待っていると、この6か月はあっという間に過ぎてしまいます。亡くなった瞬間からタイマーが動き出す、と思っておいてください。協議が長引きそうなら、途中でも家庭裁判所に調停・審判を申し立てる必要があります。請求の相手は相続人で、それぞれが相続分に応じて負担します(同条5)

親が元気なうちに、できる備えはあるでしょうか

タイトル: 記事挿絵 - 説明: 親の介護と相続に関する解説の挿絵

いちばん確実なのは、争いの種を相続より前に摘んでおくことです。

まず、記録を今日から始める。介護日誌と領収書、要介護認定の控え。後から集めるより、その都度残すほうが何倍も楽で、証拠としての力も強い。

次に、親が判断できるうちに、きょうだいと親を交えて一度話す。重いテーブルですが、避けるほど後で高くつきます。そして最も効くのは、親自身が遺言で「介護を担ってくれた者に多く渡す」と意思を残しておくこと。これがあれば、寄与分をめぐる長い争いの多くは、そもそも起きずに済みます。

なお、ここで触れた制度の数値や運用は、法改正や個別の事情で変わることがあります。実際に動く前に、最新の情報を確認し、必要なら専門家の手を借りてください。

あなたが積み上げてきた時間は、本来、計算式だけで測りきれるものではありません。それでも、その時間を相続の席で言葉にし、形にする道は、法律のなかに確かに用意されています。記録を残すこと。早めに動くこと。一人で抱え込まないこと。この三つだけ、どうか覚えて帰ってください。


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