大人になった子どもとの距離の取り方

大人になった子どもとの距離の取り方

関係を保つために、親の側でできること

関係を保つために、親の側でできること

子どもが大人になると、連絡は自然と減っていく。LINEの返事が一日来ないくらいのことで、なぜこんなに落ち着かないのか。会えば会ったで、こちらの言うことに「わかってるよ」と軽くいなされて、少し寂しい。子育てが一段落した親なら、多かれ少なかれ覚えのある感覚だと思う。

やっかいなのは、その寂しさを埋めようとして動くと、たいてい逆に出ることだ。連絡を増やし、助言を足し、財布を開く。よかれと思ってやることが、なぜか距離を広げてしまう。ここでは、その「よかれ」がどこで裏目に出るのかを、公的なデータと制度をたどりながら、落ち着いて見ていきたい。

1. 子どもが成人した時点で、法律ですら親の責任を一段下げている

子どもが成人した時点で、法律ですら親の責任を一段下げている

あまり知られていないが、親が子に負う扶養の義務は、子が大人になるあたりで性質が変わる。民法8771項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めているが、その中身は一律ではない。親が未成熟の子に対して負うのは「生活保持義務」――自分と同じ水準の暮らしをさせる義務で、民法学では古くから「最後に残された一片の肉まで分け与えるべき義務」とも比喩され、生活保持義務と生活扶助義務を区別する考え方として知られている。これに対して、成人した子に対する親の義務は「生活扶助義務」に下がる。自分の生活を確保したうえで、なお余力のある範囲で助ければ足りる、というものだ。

法律を持ち出したのは、扶養料を計算したいからではない。子が大人になった瞬間に、社会の制度のほうは親子を「対等な、別々の生活単位」として扱い直している――その一点を確認したかったからだ。最後の肉まで差し出す関係から、余力の範囲で支え合う関係へ。制度はとうに切り替わっているのに、親の頭のなかだけ保護者のまま、ということが多い。あの寂しさの正体は、たぶんこのずれにある。なお、扶養の具体的な中身は当事者の協議や家庭裁判所の調停で決まるもので、ここでの説明は一般的な枠組みにとどまる点は断っておきたい。

2. よかれと思った仕送りが、子の足場を外すことがある

よかれと思った仕送りが、子の足場を外すことがある

距離のずれが、いちばん見えにくい形で表に出るのがお金だ。困っている我が子に手を差し伸べたい、という気持ちは自然なもので、それ自体を否定するつもりはない。ただ、その援助が常態になったとき何が起きるかは、冷静に見ておいたほうがいい。

内閣府が令和4年度に行った「こども・若者の意識と生活に関する調査」では、15歳から64歳でひきこもり状態にある人が全国で推計約146万人、およそ50人に1人とされた。平成30年度調査の推計115万人から、5年ほどで約31万人増えている。そして40歳から69歳を対象とした調査では、その状態になったきっかけとして最も多く挙がったのが「退職したこと」で、44.5%を占めた。

ここで誤解してほしくないのは、ひきこもりの原因が親の援助だ、という単純な話ではない点だ。退職、病気、職場での人間関係――きっかけは人それぞれで、本人を責めて済む問題でもない。ただ、いったん足場を失った子に親が無条件で生活費を出し続けると、「働かなくても今日は困らない」という状態が、静かに固定されてしまうことがある。善意の仕送りが、再び動き出すための必要を、結果として外してしまう。これは責めるべきことではなく、仕組みとして知っておくべきことだ。本当に要る援助なのか、ただ習慣になっているだけの援助なのか。正直なところ、その線引きはきれいにはできないが、一度立ち止まって分けて考える価値はある。

3. 頼まれていない助言は、たいてい子に届かない

頼まれていない助言は、たいてい子に届かない

お金の次に距離を縮めてしまうのが、助言だ。結婚、仕事、孫の育て方。心配だからこそ口を出すのだが、頼まれていない助言は、たいてい届かない。それどころか「お前の判断は信用できない」という裏の意味として受け取られることのほうが多い。

おもしろいのは、親の側も、本心では子とべったりした関係を望んでいるわけではない、というデータがあることだ。内閣府が平成22年度に行った高齢者の国際比較調査によれば、60歳以上が子や孫との付き合い方として望むのは、「ときどき会って食事や会話をするのがよい」が46.8%で、「いつも一緒に生活できるのがよい」の33.1%を上回っていた。同じ調査では、別居している子と週1回以上連絡を取る高齢者は日本でおよそ半数。これがアメリカやスウェーデンでは約8割、韓国やドイツでは約6割というから、日本の親子はもともと接触の頻度が低いほうだ。

つまり、抽象的に問われれば「ほどよい距離がいい」と答える親が多数派なのに、いざ我が子を前にすると、その「ほどよさ」を自分から踏み越えて助言を足してしまう。ここに矛盾がある。助言は、求められたときに初めて効く。求められないうちは、たいてい雑音にしかならない。黙って見ているのは、親にとっておそらく最も難しい技術だが、効くのはそちらのほうだ。

4. 距離を取ることと、関係を切ることは違う

距離を取ることと、関係を切ることは違う

ここまで「手を引け」という話を続けてきたが、距離を取ることと、関係そのものを切ることは別だ。線を引きすぎて連絡も助けもいっさい絶つ、という方向に振れる必要はない。

むしろ日本の高齢者は、世界的に見て孤立しやすい。内閣府の第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(令和2年度)では、単身世帯の高齢者で人との会話が「ほとんどない」と答えた割合が25.4%と、調査した4か国の中で最も高かった。歳を重ねたとき、最後まで残る縁が、結局のところ子であることは少なくない。だからこそ、小さな摩擦でその縁を焦がしてしまうのは、長い目で見れば割に合わない。

目指したい距離は、たぶんこういうものだ。手は出さないが、声をかければいつでも届く。求められれば動くが、求められないうちは待つ。同居でも絶縁でもない、その中間のどこかに、関係を長持ちさせる幅がある。

最後に、ひとつだけ具体的な提案をしておきたい。次に子どもと話すとき、言いかけた助言をひとつ、飲み込んでみる。たったそれだけのことで、相手の表情がふっと変わる瞬間がある。その小さな変化が、距離を取り直せたかどうかの、いちばん確かな手応えになる。

この記事のまとめ

法律上の位置づけ:子が成人すると、親の扶養義務は「生活保持義務」から「生活扶助義務」へと法律上も一段下がる。制度はとうに、親子を対等な別々の生活単位として扱い直している。

お金の援助:よかれと思った無条件の仕送りは、子が再び動き出すための「必要」を、結果として静かに外してしまうことがある。本当に要る援助か、習慣になっているだけの援助かを、一度分けて考える。

助言の届き方:頼まれていない助言は届きにくく、「お前の判断は信用できない」という裏のメッセージになりやすい。助言は、求められたときに初めて効く。

距離と関係:距離を取ることと、関係を切ることは違う。手は出さないが、声をかければいつでも届く――同居でも絶縁でもない中間のどこかに、関係を長持ちさせる幅がある。

よくある質問(FAQ

Q. 成人した子に、親はどこまでお金を援助する義務がありますか?

A. 民法877条により直系血族には扶養義務がありますが、成人した子に対しては「生活扶助義務」にとどまり、親が自分の生活を確保したうえで、なお余力のある範囲で助ければ足りるとされています。扶養の要否や金額は当事者の協議で決め、まとまらない場合は家庭裁判所の調停・審判で判断されます。

Q. 連絡が減った子に、どのくらいの頻度で連絡してよいですか?

A. 明確な正解はありません。内閣府の高齢者意識調査では、子との付き合い方として「ときどき会って話すのがよい」と考える人が一定数を占めます。こちらから連絡を増やしすぎるより、求められたときに確実に応じられる距離のほうが、結果的に長続きしやすいと言われます。

Q. 援助をやめたら、関係が切れてしまわないか心配です。

A. 距離を取ることと、関係を断つことは別のことです。援助の見直しと、声をかけ合う関係の維持は両立します。急にすべてを断つのではなく、本当に必要な援助かどうかを一緒に話し合うところから始めるのが現実的です。

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(例:ファイナンシャル・プランナー/社会福祉士 など、関連する資格・経験)

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最終更新日

(例:20266月)

 

出典・参考資料

・民法 第877条(扶養義務者)/ e-Gov 法令検索

・内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査」(令和4年度、令和53月公表)ひきこもりの推計人数および理由に関するデータ

・内閣府「生活状況に関する調査」(平成30年度)ほか関連推計中高年層のひきこもりに関するデータ

・内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(平成22年度)親が望む子との付き合い方に関するデータ

・内閣府「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(令和2年度)単身高齢者の会話頻度に関するデータ

※本文中の統計数値は各調査の公表値に基づきます。法律解釈および「生活保持義務/生活扶助義務」をめぐる比喩表現は、民法学上の一般的な説明を要約したものです。

免責事項

本記事は、公的機関が公表したデータおよび一般的な法制度の枠組みに基づく情報提供を目的としたものであり、特定の個人の状況に対する法的・医学的・心理的な助言ではありません。扶養義務や家族間の金銭・介護に関する具体的な判断については、弁護士、家庭裁判所、お住まいの自治体の相談窓口、医療機関など、専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者および掲載者は一切の責任を負いません。記載内容は公開時点の情報に基づいており、最新の制度・統計と異なる場合があります。


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